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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
私の目

私の目



私は自分の目が好きだった。
見た目や形状ではなく、自分の目の機能が好きだった。
その機能に自信があり、自分の所有物(物質も含め)の中では一番大切なモノであり、
私という人間の存在価値を示す、唯一、人に誇れるモノだった。
目と言うより眼球と言ったほうがいいだろう。

今思えば、自分の目に愛着を持っていたその頃の、
一般人の齢相応のレベルと比較した時に多少優れていただけで、
プロに比べたら足元にも及ばないし、
天才的レベルの機能ではないから、大したことではないのだけれど。

どんなところに惚れ込んでいたかというと、先ず、視力が良かった。
右2.0で左1.5~2.0。今は随分落ちたけれど、それでも1.2くらいはキープしている。
遠くは良く見える。でもそれだけじゃない。
絵とか何かを見た時、その形の読み取りや色の分解ができる。
数値変換は無理なので、勘のようなものでの分析と分解だ。
それは『勘(或いは感性)』又は『脳の機能』の方が優れているんじゃないのかと疑問が湧くけれど、
やっぱり眼球そのものの質なり出来が良くないと成り立たない。
と言っても分かりにくいか。

筆跡を真似るとか模写をイメージするといいのか?
子どもが人物画を描くと目も鼻も口も実物とは似ても似つかぬほどちぐはぐだ。
本当に見えてるの?と言うくらい、写実と言う目線で見たら酷い。
その頃の私の絵は、既に子どもの描く人物画ではなかったようだ。
(決して自慢してるつもりはない。)
上手下手はともかくとして、子どもらしい絵としての魅力がない。
何かを見た時、細かなところを目で分析する。
常人がルーペを使わないと見えないようなところまで見えた。
手もそこそこ器用なので、見えたものを手に伝え、
別なものに投影させる機能もそれなりにあったからなのだけど、
目と手を使った細かな作業は得意だった。
そして月のクレーターなんかも見えるほど、遠くも見えるのだから
遠近両用OKだ。結構凄い機能だと自分で思う。

ある時ふと考えた。
「死んでしまったら、このすばらしい眼球も火葬してしまうんだ…、勿体ないじゃないか!」
もしも私が不慮の事故とかで命を落としたら…
そう考えた時浮かんだことは、
「この眼球は大きな将来のある若者に使って貰おう。そうだ、アイバンクに登録すればいいんだ。」

そう考え、取り敢えず身近な人にその考えを伝えた。
一応、『自分』は自分のものであって、自分だけのものではない。
死んだら悲しむ人がいる(たぶん)。
一人でこの世に出てきたわけではないし、自分だけの力で育ったわけではないから、
一番身近で支えてくれてる人には伝えておく必要があると思った。
世間的には事後報告で済ますような軽いことではない気がして、
とにかく耳には入れておいて貰おうと思った。
肝臓も胃も丈夫だから、使って貰えそうなところは全て登録するかとか、
頭の中ではそんな事も考えて。

ところが返事は予想外。
凄い剣幕で、答えは「ノー!」私は「何んで?」である。
「身近な大切な家族の者が死んで、その体にメスが入れられ切り刻まれるなど、誰が望もうか?」
それが答えだった。

私は、愛されているのだということ、必要とされているのだということを思うより、
普通はそんなものなんだと思った。
普通はそんな重大なことなのだと思った。
ああ、だから、臓器バンクとかが世間に浸透しないのだと気付いた。
私以上に私以外の人に『私』と言う人間が執着されているということを知った。
知ったからと言って、その事実に何の感情も起こらない。

私はその執着という重い感覚にフタをするかのごとく、そのことを考えるのはやめた。
そうして月日が流れ、誇りに思っていた機能は衰え、最早、推奨品ではなくなった。
自分が一番自信を持っていた大切なものの価値がなくなったことが悲しかった。





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TITLE:目





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