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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
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『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-8)
(『月の雫』以後、雫と省略)


雫は単純に考えてACの3代目だと言うことに気付いた。
なのにこんなに理解し難い精神の葛藤を強いられている。
だとしたら、今実際に『親による虐待やアルコール依存症のある機能不全家庭』の、その真っ只中にある人はどうなる?
どうすればいい?

答えは明らかだ。自分の代で連鎖に終止符をうち、連鎖を阻止しすればいい。
しかし、終止符を打つということは、『自殺』『殺人』などという短絡的な解決策に走るという事ではない。
それは『逃避』そして『敗北』という、人として微塵の誇りも残らない、残された者に自責の念ばかりを押し付ける無責任な解決策だ。
その安易な解決策は一見悪循環を断ち切ったように見えるかもしれないが、何の力も生み出さない。

生きているという事は、最低限次に何かの力を伝える事だと思う。
どんな小さなことに対してであれ、進化したDNAを次に伝える事だと思う。
雫が関わった祖父からの教育の根底には人としての誇りと開拓精神を据えられていたようで、それは雫の潜在意識に浸透していた。
故に雫にとって『自殺』や『殺人』は一番許し難く受け入れることのできない解決策であったことは幸いだ。

雫がこうして考えて悩む事にしても決して無駄ではないと思いたい。
ましてこうして、こんな駄文が人の目に触れるなどということは、誤って、昭和初期の培養液で育てられた雫(15年~20年の時差ボケ)にとっては奇跡で、誰か必要としている人の目にも触れているのかもしれない、これから誰かの力になるのかも知れない。

そう思うこと、そう望むこと、そしてそうなる事は、人として生まれたのならば悪い事ではない。
天邪鬼で偏屈な雫でも、「それくらいは素直に受け入れなければならないのだろうか?」と、多少疑問を抱きながらも感じてはいるだろう。
(『受け入れよう』になれないのが雫の、人間に対する非執着思考なのだろう。)

雫の人生も先をみればまだまだ時間がある。
自分で命を絶つことを選択肢から外せば、雫という人間は終わりではない。
続いている。
雫以上に悩み、苦悶する誰かの力になる為に雫が存在しているのかもしれない。
連鎖ではない、悪循環から切り離した命の継続が、雫の生きる意味で、人間業を与えられた意味なのかも知れない。

『if…』や『maybe…』の結論ばかりになってしまうけれど、目的も意義も見えない掴み所のない未来より、取り敢えずそれらしきものが見える方が、生き易いことは確かだ。
そういう意味では、雫は少し生き難さの重みから開放されて身軽になり、前へ進み始めたようである。





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TITLE:空はまだ遠い




(完結)



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『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-7)
(『月の雫』以後、雫と省略)


『親による虐待やアルコール依存症のある機能不全家庭』実は、祖父が正にこれの状態で育っていたのだ。

祖父は煙草も酒も、一切やらない人だった。
極端過ぎるくらいに娯楽に興じる事を嫌った。
(冗談の通じない、堅物と思われていた理由はきっとそこだ。)
非道徳的なこと、非人道的なこと、背徳、自慢、妬みなどを極端に嫌い、否定し、不正や悪を拒否した祖父。
それは、紛れもなく自分の親が、その真逆で醜態を晒していたからに他ならない。
(祖父の母親の話を聞いたことがないので、主に父親だと思う。)
祖父の父親は、酒、煙草、博打、(女に関しては不明)に明け暮れ、祖父に暴力を振るっていた。
祖父は正にその渦中で育ったのだ。

非道徳的なことを嫌った祖父だが、体罰は別で、自分の子供たち(雫の父兄弟)が悪さをしたり、人に迷惑を掛けたりした時は、尽く叱り叩いたということだった。
息子の中には、お仕置きと称し、麻の米袋に入れられて袋口を麻縄で括られ、だだっ広い農機具小屋の梁(はり)から吊るされた挙句に棒でこっ酷く叩かれ、電気一つないその場所に半昼夜放置された者もいた。

子供たちは負けじとそれに反発したようだが、そこは祖父の反骨精神が教育に無意識のうちに反映されていたようである。
そしてそのせいか、繰り返し祖父の手を煩わせる懲りない面々もいたようだが、もしかしたらそれは、歪んだ形でしか表現方法を知らないその子どもの、精一杯の親への甘え方だったのかもしれない。

そんな祖父に、母の入院による不在で、深く関わってしまった雫。
(母の不在は雫にとってアクシデントだったのか?もしも雫の母が入院などしていなくて、祖父に深く関わることがなかったとしたら、雫はACにならずに済んだのか?そんな疑問が湧くが、突き詰める機会と気力があれば、何れ書くこともあるだろう。)
そんな複雑な祖父のエネルギーに晒されて育った雫。
そう、複雑な祖父のエネルギー…。

考えてみると祖父のエネルギーとは、ACの祖父が機能不全家庭で少年時代から引き摺って来た負のエネルギーと、祖父の両親が他界後、祖父が現状を克服して理想に向かおうと歩みだした正のエネルギーである。
祖父の負のエネルギーは実の息子である父(とその姉弟)に向けられ、正のエネルギーはまるで自分が為し得なかった夢を子供に託すように、初孫の雫に向けられた。

結局雫は、負のエネルギーのみを強く受け継いだ父と、ACそのものの祖父とに挟まれてしまった訳だ。
雫の父が受け継いだ負のエネルギーも、祖父が夢と希望を託した正のエネルギーも其々が更に増幅され、雫はそれらの開放の矛先になったのだ。
ターゲットになってしまったのだ。

ここで、ふと、もう1つ思い出した事がある。
雫の祖父には養子で貰われてきた義弟がいたという話だった。
雫もこの義弟は面識あるが、本当の兄弟だと思っていたので、何かの折に「おじいちゃんの弟だよね」と祖父に言った時、祖父が吐き捨てるように「血は繋がっていない!貰われっ子だ!」と言った言葉が気になっていた。
祖父はもしかしたら、子供でありながらこの義弟を何かにつけてかばい守る責任を負っていたかも知れない。

祖父の義弟の存在…。
養女に出された雫の妹…(深くは触れないが、実は雫の妹は祖父の娘(子供が出きにくかったようだ)の所に養女に出されている)。
どこか二の次にされている血の繋がり…家族愛…薄情な雫…何か関係がありそうだ。
少しずつ様々な重要なキーワードが繋がってきているようだ。

『雫』に影響を与えた祖父の存在と題して、祖父の事を基盤に雫の閉ざされた記憶を呼び出すように書き綴ってきた。
生きる方向にまだすがる光があるならばと何かを整理するつもりで書き始めた雫だったが、まさかこんな流れになるとは思っていなかった。
自分自身のACを考えているつもりが、ACの連鎖を証明した形になってしまうとは。

冷静に考えてみると、雫の父の姉弟も、幸せか否かは分からないが、少々普通でない、決していいとは言えない人生を送っている。
そして、雫と、おそらく雫の、養女に行った妹もACだと思う。
思った以上に様々な事が見えてくる。
理由に納得がいかないと、理解できない雫には、憑き物が落ちたような感覚だ。
しかしここで、雫は怖ろしい事に気付いた。





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TITLE:閉じ込められる連鎖




(続く)



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『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-6)
(『月の雫』以後、雫と省略) 


戦後、家族を養うことで精一杯で、知識や教養は生活の余裕がなければ手に入らなかった時代。
そんな時代を生きてきた祖父の心境を推察していくにつれ、実は雫だけでなく、雫の父も『何かが欠損して歪んで育った』ACではないかということに気付いた。
見栄やプライドばかりが強くて、傲慢で我侭で、そのくせ雫に対する愛情は押し付けがましく、自分の感情が優先で、相手の気持ちは汲み取ろうとしない、井の中の蛙だった父。
雫とは水と油のような父のそれらの性格的特質や人間性はやはり、雫同様『欠損思考回路』によるものだったのではないのかと。

父の生前中は、父の遺伝子を受け継いで自分が形成されているのだと思うと、雫はえも言われぬ不快感と怒りと、自己嫌悪に陥っていた。
その身体も心も巡る血も、あの人間のものを引き継いでいるのかと思うと、自分自身を消滅させたい衝動に駆られた。
(今現在は敵が居なくなった反動か、雫の心は気が抜けて意気消沈した状態だ。)

では、何故父はそうなったのか?多分、戦中戦後の混乱した時代に生きなければならなかった祖父の、息子への関わり方に問題があったからではないのだろうか?
雫に注がれた祖父の愛情や教育は、本来は息子が、つまり雫の父が受けなければいけなかったのではないのか?
雫ではなく、雫の父の子ども時代に向けられなければならなかったのではないのか?
そんな答えが少しずつ導き出されてくると、ただ時代の波に翻弄されただけだと言うのに、娘に散々に嫌われ続けた父親が、雫は少し可哀相に思えてくるのだった。


ここで一度改めてAC(アダルトチルドレン)の意味を確認してみる。
アダルトチルドレン(ウィキペディアより)
アダルトチルドレンとは、機能不全家庭で育ったことにより、成人してもなお内心的なトラウマを持っている人のことを指す。Adult Childrenの頭文字を取り、単にACともいう。学術的な言葉ではないため、論者により定義が異なる場合がある。
一般的には親による虐待やアルコール依存症のある機能不全家庭で育ち、その体験が成人になっても心理的外傷として残っている人をいう。破滅的であったり、完璧主義であったり、対人関係が苦手であるといった、いくつかの特徴がある。また、無意識裏に実生活上の人間関係に悪影響を及ぼしている場合も多い。


改めて読み直してみると、上手く的確に表現していると感心してしまう。
『破滅的であったり、完璧主義であったり、対人関係が苦手であるといった、いくつかの特徴…』程度はどうあれ、そのまま当て嵌まる。
しかし、ここで1つ疑問が…。
確かに雫の父は酒が強く酒豪で、職業柄仲間が寄り合っては毎日呑んでいた。
でも、父はアルコール依存症ではない。(目に映る限りは。)
そして雫は、言葉の暴力は儘あったかも知れないが、腕力による虐待は受けたことはない。
過去1度や2度は殴られたことはあり、どれも納得いかないことばかりではあったけれど、これは虐待とは言わないだろう。

では何故?書いているうちに見えてきたことがある。
それは、雫の家系にずーっとACが続いていたということだった。
ACは連鎖するというけれど、その図式そのままではないか?
雫や父だけがACなのではなく、本当に重篤だったのは、実は祖父だったのではないのだろうかと言う考えに辿り着いたのだった。











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TITLE:やがて現れる真実



(続く)



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『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-5)
(『月の雫』以後、雫と省略)


雫は思った。
自分が、生まれてから多感な思春期を、正常に機能しない家庭環境で育ってしまったアダルトチルドレン(AC)というものであるならば、もやもやと感じていた自分の生き難い理由や、欠損部分とそれを取り巻く様々なものに、一度しっかり向き合って明らかにしなければいけないのではないかと思った。
そうすればもう少し、心の奥底で渦巻く違和感や虚無感は取り払われ、生きる意味も素直に受け入れられるのではないか、心の油膜が落ちるように目の前の将来が明るくなり、人並みに生きる希望が生まれるのではないかと…。

しかし思考がそういう方向に向いたからと言って、『人道』なるものから逸れた物事の考え方やその内容については、雫自身にとってはあまり重要ではなく、『欠損思考回路』が出来上がった原因とプロセスが興味の対象であった。
この時雫はまだ、まるで人ごとのように沸いてくるただの好奇心にも似た興味が、自分が気付かずにいた、と言うより実は封印していたトラウマを暴き出し直視させられることになろうとは、予想もしていなかった。

一つ一つ問題の答えを導けばコトはクリアに解決され、心は霧が晴れるように開放されていくものと思っていた。
しかしそれは間違いだった。
コトはそんなに容易いものではなかった。
一つをほどけば何かが絡まり引き摺り出され、複雑に絡まったトラウマと連鎖。
それに立ち向かうことは、何重にも記憶の奥底に封印していた物を曝け出し、心の傷を抉り出すことでもあるのだということを、雫はまだ知らなかった。

雫は祖父を尊敬するに値するすばらしい人間だと崇拝にも似た感情を抱いていた。
体力ばかりで頭を使わない家族の殆どは、百姓にはそぐわぬ学識ある祖父を、何かとややこしくて面倒で、理屈っぽく偏屈な人間ということで(おまけに相当頑固者だったことも原因か)、疎ましく思っていたようだが、雫にとっては誰にも勝る師であった。

しかしながら雫が、それほど尊敬する祖父と(訳あって)親以上に関わりを持って生活していたにも関わらず、その人間性を歪めてしまったのは何故か。
その原因を探るには、祖父の生い立ちや環境を推し量る必要があった。
雫にとってこんなにすばらしい人間であると思われる祖父はどんな歴史を背負っていたのか。

祖父が食欲旺盛な思春期の4人の子どもと妻を抱え、家族の大黒柱として働いていたのは終戦間も無くだった。
混乱した戦後を生きるためには、自分の子供への教育に気を回す余裕などあるはずもない。
日々、飢えさせる事なく家族を養っていくのに精一杯で、自分の持つ知識や知恵を、しっかりと子供に伝えるなどという、そんな余裕など無かったのだと想像できる。

雫は職場や社会生活で沢山の人生の先輩(主に60歳前後)と関わるにつれて、雫が育った環境と雫を育てた師(祖父)の教育は、(雫より)15~20歳上の人たちが受けた教育であり、体感してきたものなのだということに気付いた。
まるで、昭和初期からタイムスリップして、違う文化の現代に放り出され帰れなくなって(ついこの前そんなドラマがあった)、時代錯誤を書き換えながら、今に生きているようなものか…そんなことを考えた。
現代の人間社会に馴染めないのはそういう影響もあるのか…と。
少なからず、雫が『生』や『死』や、『自分』や『人間』であることへの自覚と執着がない原因の1つにはなっているような気がする。

祖父の事を書き記していくうちに、雫は今まで考えてもみなかったあることに気付いた。




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TITLE:光と風の気配



(続く)



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『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-4)
(『月の雫』以後、雫と省略)


雫が生きている祖父と会ったのは、病院でのあの時が最後だ。
入院する祖父を見舞い、仕事場のある自分の生活拠点にとんぼ返りした数日後、祖父は亡くなった。
結局、当たり前の話だが、葬式は行われ、雫はあの言葉を最後に祖父の死に目には会えず、滑り込むように葬儀に参列した。
火葬直前だった。
多分使う交通機関によっては死に目に会えたかも知れないが、特に焦りはしなかった。
何故かって、最早人への執着が薄い雫にとって、『死ぬ』も『死んだ』もそう変わらない…、どこかにそんな冷めた感情が根付いてしまっていたからかもしれない。
(命と愛に熱い信仰まがいの思想を持っている人が聞いたら、反論と怒りを買い窘められそうだが…。)

生前祖父が、遠く離れて暮らす雫に、こうも言った。
「無理に帰って来なくていいからな。お金も掛かるだろうし、事故も気になる。
私は会いたい時には、何時でも夢でお前に会いに行っているから。体に気をつけて頑張りなさい。」
この言葉が、義務的に建前の行動をしなくてもいいという、ある種の束縛から雫を解放していた。
多少何か第6感なる力があるのか、正夢、逆夢、予知夢など不思議な夢を見ることがあったというのもある。
実際、雫の祖母が、結構このような力を持っていたようだけれど。
そんな理由で、「夢で会いに行く」が妙に真実味があって、自然に納得してしまったのだった。
(しかし、あれほど心底自分に関わった大切な人がこの世を去るというのに、死に目に間に合う事を、義務的な建前の行動としか考えられないといのは、やはり何かおかしい。)

それでも今までは、そのことが一般の人の思考回路と違っても、雫は特に気にしないことにしていた。
何故なら、雫は十分過ぎるほど、外面は社会に上手く対応していたし(適応ではない)、普通の人たちに違和感を感じながらも、凄く普通の人の振りをしていたと思う。
それに、そのような命を冒涜するかの如き不届きな歪曲思考を社会に主張しているわけでもなかったから。

今までは、もう一生そのように本性を押し殺して、綺麗事の人間愛思想をたっぷり持った心優しい人の振りをして生きていくんだと雫は漠然と受け入れていた。
そのうち慣れて、本当にそんな人間になれるかもしれないと、自分を騙しながら生きていくことを諦めの境地で受け入れていた。
そう、アダルトチルドレン(AC)と言う言葉を知るまでは。






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TITLE:移ろい行く執着の場所




(続く)



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『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-3)
(『月の雫』以後、雫と省略) 


病室のベッドの上で、生への執着もなく穏やかに自分の死を受け入れる祖父の姿を見つめる雫の中で、死への恐怖や人への執着が消えた。
そう、「葬式はいらない。死ぬ者よりも、生きて残された者のことを考えよ。」と言った祖父の言葉は、死んでいく人より生きていく人が優先なんだと歪んだ形でインプットされた。
あまりに強くこびり付いてしまったために、それが修正しなければいけないことなのかどうか、間違った意識なのかどうかさえわからなかった。

なぜ、それ程強く刷り込まれてしまったのか?
普通なら『変わり者の偏屈爺さんの戯言』くらいにしか受け止められないだろう。
実際祖父の子供たち(雫の父とその兄弟)は、祖父の言葉など全く気に留めていなかった。
祖父が葬式はするなと言ったところで、常識から考えてもそんな要望は受け入れられる筈がない。
最後の短い入院の寝たきりのベッドの上で祖父が発した数少ない言葉を、祖父の本位として受け取ったのは、訳あって親以上に祖父と生活を共にした雫だけだった。

雫は病室の隅で、祖父のあの言葉を聞いた後にこっそり誰かに確認の意味で訊ねた。(雫の母も居たから、彼女に聞いたかもしれない)。
「葬式しないの?」
「そんなもの、真(ま)に受けるわけないだろ。」
そんな答えだったように雫は記憶している。

あの言葉は祖父にとって決していい加減なことではなくて、思慮深い祖父が心底願い、到達した最後の答えであり希望だと言うことが、祖父と一番接していた雫には痛いほど伝わった。
しかし、残された軽薄な人たちは、祖父の心など汲みもせず、自分の保身のために体裁ばかりの葬式をあげた。

確かに葬儀の規模は故人の存在の大きさを反映するのかもしれない。
が、そのこと以上に、残された者達のエゴや見栄や自己顕示欲を反映していた。
仮にもしも葬式をしていなかったら田舎の世間の目は、その選択肢を望んだ祖父の人間性より、家人に対して故人を蔑ろにした親不孝者というレッテルを貼り付け、子孫の代まで罵り続けるであろう。
だから葬儀が後に残された生きている者たちの見栄の象徴であろうが、寛大な祖父ならこれから生きていくお前達が気の済むようにしなさいという思いであの世から眺めていただろう。

祖父が逝去するまでの雫の生活は、そんな祖父の影響と相反するモノの影響が合わせ鏡のように存在した。
相反するモノとは何か。
それは奇異な思想の培養液とも言える雫の父の教育だった。
雫の父の、祖父に対するコンプレックスに凝り固まった反抗心から生まれた教育だった。
その異質な二つのモノに同時に育まれた雫の中には、一見正常に見えて、実は大きな異変が生じていたのだ。
それは雫に『何かが欠損した思考回路』を生み出していたのだ。

話が逸れたが、『なぜ、祖父の言葉がそれ程強くすり込まれてしまったのか?』その理由は祖父の影響と同等に存在した、雫の父に脈々と根付く『親(祖父)に対する反感思想』によるものだった。
それらによって雫の中に形成されてしまった『何かが欠損した思考回路』によるものだった。

祖父の言葉は、雫の『欠損思考回路』により、極端に歪曲した解釈となり認識された。
そうしたことが更に、雫を人間への執着から遠ざけていった。




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TITLE:偽りの光




(続く)



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『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-2)
(『月の雫』以後、雫と省略)


「人生波風なく、平凡が一番幸せだ。平凡に暮らす事を求めなさい。」
雫は、祖父が常々言っていたこの言葉だけは納得がいかず、受け入れられなかった。
祖父にとっては、過酷で波乱万丈な生活に翻弄されて否応なしに歩まされた人生の中で、最終的に導き出した答えだったとしても、雫にはこの祖父の思想を受け入れることが出来なかった。

物資に恵まれた世の中に生まれ、まだ苦労や怖さを知らない、夢多き若い雫から将来への希望を奪うような、そんな保守的な思想が受け入れられる訳がない。
祖父の意図する所は分かるが、雫の心のどこかに宿る冷血で野心的な欲望は、この思想を明らかに拒絶していた。

雫が社会に出て働ける年齢になり途轍もなく遥か遠くに(と言ってもいいくらいの場所に)就職して間も無く、そんな祖父が病に倒れた。
1年ほど入院していた。が、その入院は病が既に手の施しようがないほど悪化した状態で発覚したもので、殆ど延命に近い治療だった。
治る見込みがないことを察してか、本人の頑固な申し出で半ば無理矢理退院し、在宅療養に切り替えた。
雫の母の介護に頼りながら、それから祖父は結局10年近く生きた。

死ぬ前の最後の入院の時に祖父があることを言った。
その言葉が、雫の死に対する認識を変えた。
『私の葬式は要らない。私はもう十分に生きたから、私のことなど考えなくても良い。死ぬ者よりも、生きて残されている者のことを考えなさい。』
祖父は、病室のベッドを囲む自分の子供たち(父とその姉弟)に向かって言った。
それから祖父の目が、雫や小さな曾孫たちを見回した。
その目はとてもやさしかった。

雫の中で何かが弾けた。今までどこか縛られていた意識が、一番最愛の人に、
「私のことを考えなくてもいいから、お前はこれから自分の為に、自分の人生を歩みなさい。」
と、言われたようだった。
解き放たれた気がした。
この人が良いと言っている、この人が言う事は正しいんだ、そんな気持ちだった。
あの時の場面と祖父の言葉が雫の脳裏に深く焼付いた。






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TITLE:穏やかな休息




(続く)



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『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-1)
(『月の雫』以後、雫と省略)


雫の祖父は、大酒呑みの父親(酒で家を潰した)の代わりに、14歳だったか13歳で、サハリンへ渡る船の人夫として働き家を支えた。
 ※サハリン:旧樺太(からふと)
 ※人夫(にんぷ):力仕事に従事した労働者の旧称

祖父は青年時代に海兵隊も経験した。
船の上の閉ざされた世界で祖父は様々な生活能力を身に付けた。
料理もするしセーターの綻びも編み針で器用に繕う。
モノを購入する時代ではなかったから、基本、自分で何でも作る。

一人前になってからは今の場所(雫の実家)に住み、少しずつ土地を開拓し所有していった。
知識や教養も豊富で、世の中の事に疎い村民の交渉事や相談にも乗っていた。
村民の先頭に立ち、市長に掛け合って村に新しい道路を引いたり、舗装整備したり、バスを増やしたりと、祖父の働きは随分と村の生活水準向上に貢献したようだ。
農業の歴史を凝縮した模型作品(作業する人や縮寸の道具(手作り)を並べたもの)を、市の郷土資料館に寄贈したり、子供のための地域活動には特に積極的に参加した。

祖父の学歴は、中学卒業程度だと思うが、祖父自身は非常に勉学熱心で、様々なことを新聞や本から独学で学んだようである。
年老いてからも学習意欲は旺盛で、大学の特別カリキュラムなる『老人大学』(おそらく戦争や生活苦など不安定な時代に生き、何らかの事情で学習の機会を奪われた人たちのために開設されたものだと思う)にも参加していた。

漢字の読み書きに関しては、辞書を引くのを面倒がった雫の問いに100パーセント答えることができた。
斬新なアイデアや目新しい事を躊躇なく受け入れる寛大さも、あの時代の人にありながら、偏見的でない祖父のすばらしいところだ。

雫を幼い頃から良く面倒をみていた祖父だが、周りの同年代や他人からは、真面目で堅物で融通がきかない、ともすれば偏屈な頑固ジジイの印象を持たれてもいたようだ。

雫にとって祖父は、雫の欲する能力を備え、あらゆることに長けた、尊敬すべきスーパー老人だった。
しかし、そんな尊敬すべき祖父に対して、雫にはひとつだけどうしても受け入れられない祖父の思想があった。




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TITLE:木漏れ日





(続く)



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