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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
カテゴリー「月の部屋3(愛がない理由)」の記事一覧
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誕生に母の愛がない理由(4)




そう考えると、雫が投げかけた質問に対して若かりし頃の母がとる様々な態度に、 
納得できるところがたくさんあり、数々の合点がいった。 
母はクールな訳ではなく、自分の産んだ子供が思春期を迎えるほど成長したと言うのに、 未だ心を凍らせたままだったということなのか。 

母のように十代で結婚し二十歳程度で出産する女性は沢山いる。 
ギャルママと呼ばれる、一見子供を育てるなど出来そうにない、 当人が未だ見るからに幼くて、とても母親には見えない女性達もいるし、 更に中にはシングルマザーであったりする女性もいる。 

しかしそのように母親として頼りなく思われる女性達であっても、 根本的に雫の母とは大きく違うところがある。 
それは、彼女達の殆どは、付き合った期間はどうあれ愛した男性の子供を身ごもり、 10ヶ月間お腹の中で大切に育み、やがて溢れるほどの愛情をもって、 生まれてくる子を迎えるであろうということ。 

生まれた雫はやがて喘息やアトピーが発覚する。 
母は大家族の長男の嫁というプレッシャーの中で、 体の弱い子を産んだという負い目を更に背負う。 
間も無く自分も病気になり長期間入院する。 
そして雫の幼少期、目の前には母親が不在になる。 

妊娠して赤ちゃんを授かると誰もが事情はそっちのけでおめでとうと言う。 
子供を授かることは本当におめでたいことなのだろうか。 
母は雫を身ごもった時、おめでたい事だと喜んだのだろうか? 
雫を身ごもって嬉しいと思ったのだろうか? 
身重の身体にも関わらず、大家族の家政婦のように家事や田畑仕事に追われ、 出産後は病気持ちの子供の育児にも追われ…。 


雫の誕生には母の愛が見えない。 
というより母の愛が存在する余地がなかったのだと思う。 



幸いなのは、その母も今は既にそんな過去を割り切って、人生を謳歌している。 
雫はそんな姿を電話向うに窺い知ると、母に対する罪悪感が少し薄れ、ほっとするのだった。 


雫は自分の与えられた人生に早く慣れてしまえたらいいのにと思った。 
雫の誕生に母の愛があったかなかったかなどどうでもいいことなのだと、 未練も拘りも捨てて割り切って生きたいと、日々希っている。 
しかしそこに至るにはまだまだ長い道程のようだ。 
慣れた頃にはきっと、人生のゴールのリボンが、或いは出口のドアが目と鼻の先か…。 
そこに辿り着いたとしても、夢は叶ってはいなくて、雫は相変わらず人生に迷ったままか…。




(終わり )




 


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TITLE:誕生に母の愛がない理由





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誕生に母の愛がない理由(3)
 

19歳の処女の娘が、相手の写真を一度見せられただけで、 全く初対面の見ず知らずの5歳も年上の男と結婚する。 
その時の時代背景や雫の母の様子から察するに、この出会いにはこの時点で、 恋愛感情など存在してはいないだろう。 
しかし所詮若い男と女、床を共にして夜を重ねるに連れ、性への興味も相まって、 やがてお互いを求め合いセックスへと進展していくというのか。


おそらく、当時のそのような嫁ぎ方ならば妊娠は自然の成り行きであるから、 現代の若者のように妊娠回避の意識はないだろう。 
当然のことながら望む望まざるに拘わらず、特に避妊することもしなければ子供ができる。 

ここまでの流れを振り返ってみて、もしもたった一度見た写真で恋心が芽生えたとしよう。 
そうでなくとも肌を重ねるうちに、そんな恋心が芽生えてきたとしよう。 
一目惚れの状態で、或いは恋愛感情が生まれてきた状態で結婚妊娠したなら、 母はその頃の幸せな心情を、きっと照れながらももっと雫に語っただろう。 
愛に発展し性交渉に及んだのなら、母はきっと世間一般の妊婦のように妊娠を喜び、 雫を身ごもっていた期間の胎動を喜び、出産の苦しみや感動を話してくれたに違いない。 

けれど雫は母からそんな言葉をこれまで聞いたことがなかった。 
雫の誕生に、これまで一度たりとも母のそんな幸せそうな様子を見たことはなかった。 
子供の頃はその理由も分らず、ただ母は少しクールな女性なのだと信じ、 ただ漠然と疑問を抱いていただけだった。 
が、様々なことを経験し大人になった今、雫は切ない現実に気付いたのだ。 

母は恋愛感情のない状態から、一つ屋根の下の一つの部屋で、 好きかどうかも分からない赤の他人である大人の男と毎夜を過ごした。 
そのように朝晩を共に過ごしていたとは言え、たかだか1年の同居生活で、 喜んで身体を委ねるなどということができるのだろうか? 
たかだか1年で愛のある性交渉ができるのだろうか? 
もしかしたら母が雫を身ごもったのは合法レイプに等しいのではないのだろうか? 

母が結婚の馴れ初めや妊娠出産に触れられたがらない理由はそこにあるのか。 
母の心の中では、雫を宿し出産した経緯は触れたくない事実で、 もしかしたら忘れたいほど辛い過去なのではないのか…。 
雫の命の始まりを遡ることは、 母があの時の苦悩を思い出すことに他ならないのではないのか。 

そう考えると、雫が投げかけた質問に対して若かりし頃の母がとる様々な態度に、 納得できるところがたくさんあり、数々の合点がいった。 
母はクールな訳ではなく、自分の産んだ子供が思春期を迎えるほど成長したと言うのに、 未だ心を凍らせたままだったということなのか。 



(もう少し続きます…)





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TITLE:誕生に母の愛がない理由(3)






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誕生に母の愛がない理由(2)


すると母はぼそりと言った。 
「親同志が決めた結婚で、写真を一度だけ見せられて、どこの誰とも知らぬ人に嫁いだんだよ。」 
思いも寄らない言葉だった。 


喉の奥と胸が締め付けられるような感覚と同時に、 子供心にある恋愛や結婚への憧れがガラガラと崩れていくような寂しさが込み上げた。 
その後は言葉が詰まり何も言えなかった。 
その話はそれっきりになった。 

その頃は、そんな写真を見ただけの親の決めた政略結婚でも、 一応母は父の写真を見てこの人ならと承諾したのだろうと、 雫は少女マンガのような、恋に夢多き解釈をした。 
嫌だったら断ればいいんだしと、簡単に拒否できるものだと思っていた。 
(実際は親の決めたことに逆らうなど、その頃はまだ簡単にできることではなかった。) 

その時の母の心境がどんなだったかなどとは考えてもみなかった。 
その答えを聞くまでは、現在ではありきたりでない結婚の切欠をドラマチックにすら感じて、 自分の父と母がまるでテレビドラマや小説のようにロマンチックにさえ思えた。 
愚かなことに雫は、父と母の出会いに対して少し得意な気分でさえあった。 

ところが最近、母のあの言葉を聞いた時に感じた苦しさ以上に、 遣り切れないあることに雫は気付いた。 
それはこれまで思いもしなかったことだった。 
雫はあるとても悲しい事実に気付いてしまったのだ。 


雫の母は19歳で結婚していた。
相手は5歳年上だった。
 
高校を卒業して1年後くらいに、「この男性どう思う?」と言われたか、「この男性のところへ嫁に行きなさい」と言われたかはわからないが、父の写真を見せられ、その後すぐに結婚していた。  
一般的に適齢期を考えるなら、19歳はやや早い結婚と言える。 

 

そして雫は、母が21歳で産んだ子である。 
21歳で産んだということはその10ヶ月前に妊娠したということになる。 
雫の誕生月から逆算していくと明らかに母は20歳で妊娠したことになる。 

つまり纏めると、母は19歳の時、親の決めた、 それもたった1度写真で見ただけの見ず知らずの24歳の男性の元に嫁ぎ、 翌20歳に処女を失い(母の時代は女性はとても貞淑だったから)、 雫を身ごもって21歳で産んだということになる。 

文字だけ追えば早婚についての何と言うことのない文章の、どうと言うことのない内容だ。 
けれどどそこに置かれた女性側の気持ちになって考えてみると、 単純に結婚や出産を喜べない受け入れ難い背景が見えてくる。 
そして大きな苦悩と疑問が浮かんでくるのだ。 

19歳の処女の娘が、相手の写真を一度見せられただけで、 全く初対面の見ず知らずの5歳も年上の男と結婚する。 

その時の時代背景や雫の母の様子から察するに、この出会いにはこの時点で、 恋愛感情など存在してはいないだろう。 
しかし所詮若い男と女、床を共にして夜を重ねるに連れ、性への興味も相まって、 やがてお互いを求め合いセックスへと進展していくというのか。

 

 



(もう少し続きます…) 

 

 




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誕生に母の愛がない理由(1)




雫の母は、父との馴れ初めや雫をお腹に宿していた時の事やその頃の気持ちを話したがらなかった。 

普通は誰しも一つくらい、結婚前のデートの思い出や、赤ちゃんがお腹の中で動いている喜びとか、 妊娠中のエピソードなるものが何かしらあると思う。
だが、 
雫がそういう話題を投げかけると、母はいつもするりと上手くかわし素通りするか、話をはぐらかすのだった。 

「お父さんとどうやって知り合ったの?恋愛結婚?見合い結婚?」 
中学生くらいだったろうか、雫があからさまにそんな質問を母に投げかけたのは。 
恋愛や異性に興味を持ち、友達と顔を合わせば誰が誰を好きとか嫌いとか、 学校へ行けば専らそんな恋の話で盛り上がっていた頃だと思う。 

普段ならかわされてお終いの質問だったが、雫はこの時は、母に少ししつこく訊ねた。 
どうせ結局はかわされるだろうと内心は期待していなかった。 
しかしその時どういう風の吹き回しか、初めて母は、やや渋い顔をしながらも答えを返してきた。 
その答えはあまりにもあっけなかった。

「どちらでもない」 

その頃の雫の頭の中には、結婚は見合いか恋愛の2種類しか思い浮かばなかった。 
戦前や戦後間もなくとかという時代なら、身売り同様の政略結婚もあっただろうが、 少なくとも本人同士の自由結婚が認められるて受け入れられるようになった母の世代以降は、 世の中のあらゆる結婚がその2種類のうちのどちらかに当て嵌まると思っていた。 
だから、そのどちらでもないという母の答えの真相を、 その頃の人生経験もまだまだ未熟な雫は推し測ることが出来なかった。 

母は言った。 
「見合いしてから恋愛、と言えば恋愛だし、そんなものかな」 
雫は漠然とした内容を自分の頭の中で整理するように僅かに間をおいて訊ね返した。 
「見合い写真を見てから、良さそうな人だと思って結婚したの?」 
母はそんなとこかなと、話を終わらせたそうな投げやりな口調で言った。 

雫はそんな母の表情を脇目に、テレビのファミリードラマでよく見る、 お見合い写真を数枚並べてプロフィールを見比べながら相手を品定めする、 そんなシーンをどこか羨ましい気持ちで思い浮かべていた。 

「何枚か見合い写真があってその中からお父さんを選んだとか?それから付き合いだしたんだ。」 
雫はひとり言の念仏のように少し早口で言いながら、 見合い後恋心が芽生え一応愛が生まれて恋愛結婚か…と単純に納得し、 それも恋愛の形かなどと大人ぶった思春期の脳で自分勝手に良いように解釈していた。 

すると母はぼそりと言った。 
「親同志が決めた結婚で、写真を一度だけ見せられて、どこの誰とも知らぬ人に嫁いだんだよ。」 
思いも寄らない言葉だった。 


(続きます…) 




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TITLE:誕生に探す母の愛の所在

 






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