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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
培養液(6)

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-6
(『月の雫』以後、雫と省略)

雫と母の関係 

雫が子供時代を生きたこの小さな世界での人間の価値は、完璧にやれて『100』になるのではなく、そこが『0』のスタート地点なのだ。
ここでは、完璧に出来た所から、人間の価値が発生するのだ。
雫の子供時代が将来何の役にも立たないことにつぎ込まれようが、雫がそれらを完璧にこなそうが、この小さな閉鎖世界では出来て当たり前と言う、そこからが『0』なのだった。 



雫は学校の勉強や趣味に没頭するを口実に、その仕事を遅らせたり忘れたフリをする事があった。
米を研ぐ大変さがイヤだったこともあったけれど、子供らしく机に向かう権利(学習する事)を、否定され奪われることへの反発、理不尽な事を強いられ、納得のいかない思想で押え付けられる事への些細な抵抗だった。
この家では子供に対して、勉強よりも家事手伝いが優先という、現代では考えられないような歴史と逆行した教育が平然と為されていたのだ。 


仕事をさぼるという雫の抵抗は、田畑から疲れて戻った空腹な大人や母を度々失望させた。
そういう時、雫の母は明らかに口数が減り、確実に表情は不機嫌さを顕わにして、見るからに暗かった。
当然だ。
田畑仕事で疲れた体を引き摺り、ご飯と味噌汁は出来ているはずだと当てにし、少しは家事で楽をさせて貰えることを期待して家に帰り着いたのにそれがなされていなくて、13人分の食事の支度を全て一からやらなければならないのだから。 


おまけに末っ子で育ち、20歳前で嫁に来た雫の母は、あまり料理が得意ではなかった。
更に気の毒なことに、義姉(父の姉)がやたら器用で料理も上手い女性だった。
義姉自体は嫌みなどを言う人ではなかったが、雫の母にとっては、そんな義姉の存在や姑の遠まわしな嫌みや、偏屈で我侭で亭主関白な夫(職人とはそんなものだけど)、更に頑固で偏屈な舅、全く能天気な義理の兄達二人、そして赤の他人である弟子達の、無言のプレッシャーの生き地獄に、日々心は休まることなく晒されていたと思う。 


雫の母にとって、雫は彼女の子どもと言うより、他人だらけの中にあって唯一自分が泣き言をさらけ出せる、血の繋がった身内だったかもしれない。
と、同時にまだ母親になりきっていない若い彼女にとって、身内や友人から離れてくらす不安な心を支えてくれる、雫はそんな友人的存在だったかもしれない。 


事実、当てにされながらも雫はしゃあしゃあと彼女を裏切るのに、皆が夕食を終えて茶の間から姿を消す頃には彼女の機嫌はすっかり戻り、まるで親友に相談するかのように姑に対する愚痴や困りごとを、雫相手に零し始めるのだった。
年寄りが寝静まった後の夜半や、家周りの手伝いを二人っきりでしている時などに、それはまるでOLさんが給湯室で先輩や会社の愚痴を零すかのようだった。雫がいくら言葉の理解力が多少優れていたとは言え、相手(雫)は小学生低学年だということを考え合わせれば、親子の然るべき理想的な関係とは凡そかけ離れている。 


そのような妙な依存関係になった原因は他にもある。
おそらく雫の母が、出産してから雫を育てていないからに他ならない。
縦列的な親子関係ではなく、並列的な姉妹或いは友達のようなそんな関係の母と雫。見た目だけなら友達のようで『嬉しい~!』ともなろうが、実際の日常生活に於いての精神的な関係までそれでは、人間教育や親子関係によって育まれるべき子供の人格に大いに問題が起こりそうである。 


随分昔『学校へ行こう!』と言う番組で、〔友達親子〕なる企画があった。
若い(と言うより若作りした)お母さんと娘がペアとなって、どのペアがどれだけ友達同士のように見えるかを競っていた。
かつて、雫が15歳くらいになった頃、雫は母と二人でショッピングに出かけるとよく姉妹に間違われていた。
母子だと分かると「若くて綺麗なお母さんね」と、大抵皆言うことは一緒だった。
世間の人の目には仲睦まじい姉妹、或いは母娘に見えていたのだろうか。 


そのことを雫の母がどう感じてたかは分からない。
彼女が一生懸命母親になろうとしていたとすれば、母親らしからぬ若い娘に見られていたことは、少なからず負い目になっていただろう。
世間の若いお母さんは嬉しいかもしれないが。
雫はというと、間違われるたびに『彼女に母を求めることへの諦め』が強くなっていって、雫の中での母の存在は『頼りない歳の離れた姉』に変わっていった。 


世間によくある『見た目が友達親子』的母娘の場合、何だかんだ言ってもいざとなれば、娘は「ねぇ、ねぇ、おか~さん、お願い!」などと猫撫で声で甘え、それはいたって日常的な愛情表現であろう。
しかし『中身まで友達親子』的母子の場合、娘は母の支えになろうと努めることはできても、自分が甘える事はできないのである。
悲しいかな雫と母は、自分達の意思とは全く無関係に、受け入れ難い時代錯誤的な環境に放り込まれてしまったようなものなのである。
あたかも戦場の同胞のような女子二人とでも言おうか。 




(続く) 



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TLTLE:私と母の関係







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