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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
培養液(14)

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-14) 
(『月の雫』以後、雫と省略)

高校進学という選択(前編) 

世間の中学生は本格的に受験のシーズンに突入する。
雫も遅いスタートではあったが、参戦することになる。
そして、丁度この間に雫を縛り付けるもう一つの出来事が起きる。
このことが引き金となり、父に縛り付けられたこの忌まわしい環境からの脱出計画が、雫の中で秘密裏に始動する。 



中3の夏休み、卒業後の雫の進路はまだ決まっていなかった。
中学卒業後は今はほぼ100%に近く誰もが進学するだろう。
しかし田舎の学校ではまだまだクラスに2、3人は家の事情や学力不足などの理由で進学できず、その代替として就職する同級生がいた。
ニートやアルバイトで食い繋ぐフリーターと言うものも当然まだ社会的に浸透してはおらず、中卒者には進学か就職の何れかの選択肢しかなかった。 


雫ははっきり言って、勉強が嫌いだった。
成績はどの教科もそこそこ優秀な位置づけにはあったが、美術以外は特に好きな教科もなかった。
漠然と美大へ行きたいという気持ちはあっても、その頃既に美大どころか進学を言葉にする気力は失せていた。
原因は2つあった。 


進路などまだ何も考える必要がなかった中学に入って間もない頃のことだ。
雫は両親の前でさり気無く、自分が美大と言うものに興味があることを仄めかしてみた。
晩酌を愉しむ父の機嫌を損ねないように会話の流れを警戒し、とても遠回しに恐る恐る緊張しながらその話題に誘導していった。 


しかしすぐさま父は言った。
「画家になるのか?」そして間髪入れずに続け様に言った。
「美術の先生になるのか?」たった二つの選択肢を提示され、雫はどちらかの選択を迫られた。 


雫は思った。
画家や美術教師以外にも美術的な職業は沢山あると。
物のデザインや広告、衣料、メディア、インテリア、文具、書物、詳しい仕事内容やそのための方法は、その時はまだ何も分からなかったが、テキスタイルデザインや挿絵画家に憧れていた。
今は画家や美術教師以外にも色んな仕事があると、雫はなんとか父にそのことを言おうとした。 


が、すぐさま雫の開きかけた口を遮るように、父は言った。
「画家になったって、絵が売れなければ食べていけないだろう?どうやって生活するんだ?」
中学生になったばかりの雫がそんな具体的なビジョンを持っている筈がなかった。
雫は黙り込んだ。
「学校の先生にでもなるならいい、公務員だし。」
そう言うと父は、現実的な話を続けた。
「公務員なら、百姓みたいに天候に左右されて、一年頑張ったって収入が殆どない、なんてことはないし、働いても景気に左右されて収入が減ったりする事はない。」 


雫は教師にだけはなれないと思っていた。
以前書いたが、これまで幼い頃から雫を支えてきたのは父母ではなく、教師と言う職業に携わる人たちだった。
何度も繰り返すが、雫にとって教職とは聖職であり、その権利を手にできる人は、心広く大きな愛で子供に接する才能を持つ人であって欲しいと言うのが、理想だったからだ。 


良い教師に恵まれず反感を抱き、教職者に対して恨み辛みの思い出ばかりを抱える子供も少なくはないだろうが、有り難いことに、愛情の希薄な親の代わりに、雫は良い教師達に恵まれてきた。
今雫がこの世の中で様々な疑問を抱えながらも生活していられるのは、そういう教師との出会いがあったからに他ならなかった。
だからこそ雫は、自分如きにとても教師の役目など負えないと思っていた。 


「美術の先生にはならない」
そう雫がいうと、父は言った。
「散々大金をかけて大学まで行って教師にでもなるならいいが、嫁にでもいかれたら二束三文だ。
どうせ女は嫁に行くんだから、大学なんか行く必要はない。」
そうだ、雫の父は常日頃口癖のように言っていた。
「女はそんなに勉強しなくていい。
どうせ嫁に行くんだから!」
「教師や医者や政治家にでもなるならともかく、女が大学へ行ったって嫁に行ったら何もかも無駄だ。」
雫は取り付く島もない父の一方的な思想と言葉に、最早この人に何を言っても無駄なのだと諦め始めていた。 





(続く) 



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TLTLE:人生の樹1




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