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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
培養液(18)

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-18) 
(『月の雫』以後、雫と省略)

高校生活、思いもしなかった展開(前編) 

この事は全て、雫が弱いだけで、雫が犠牲を厭わず反抗しさえすれば済む事なのかも知れない。
また、上記の事を寧ろ希望する人(しなくていいのが羨ましいと思う人)にとっては、雫の苦悩は永遠に分からないだろう。
ただ、『犠牲を厭わず』と言うことは『迷惑を掛ける事を承知の上で』ということになる。
『人に迷惑を掛ける』ことほど、辛く耐え難い事はなかったあの頃の雫に、親に反抗すると言う選択肢は考えられなかった。 



世の中の大半の受験生は中高大学問わず、既に進路を定め合格という勝利を目指して受験と言う戦の真っ只中にいた。
土壇場で進学を決めた雫も今更と思えるほど遅れて参戦した。
最下位くらいまで落ち込んだ数学の成績を挽回し、その地域ではそれなりに有名な進学校に目標を定めて受験に挑んだ。
数学に不安がなければ、本来は十分合格圏内の評定を持っていた筈の志望校だった。
商業科を受けろという親を説得しての、滑り止めのない普通科一校だけの受験だった。 


問題の数学の成績を挽回したとは言え、合格発表当日は流石に雫自身も緊張と大きな不安を抱いていた。
おそらく数学はあまり良い成績ではなかったと思われるが、結果は合格だった。
雫はほっとした。
合格発表の日、雫も日本国中の受験合格者同様に背負うプレッシャーや不安感から開放され、心の底から合格を喜んだ。
だがそのような喜びを感じていたのは雫本人だけで、親も教師も誰一人おめでとうよかったねなどと声を掛けて褒めてくれた人はいなかった。 


合格発表の日、担任教師は合否が心配される生徒に付きっ切りだった。
そんな教師が雫に掛けた言葉はとても寂しいものだった。
雫が教師に歩み寄り受かった事を報告しようとすると、すかさず合否に不安のある生徒の報告を耳にした教師は雫が言葉を発する前に、「あなたはいいね」(多分、大丈夫ねと言う意味)と背中をポンと叩いてその場を立ち去った。
雫の合格に向けられた言葉はその一言だった。 


雫の合格発表の日の光景は、普通よく見るそれとは凡そかけ離れたものだった。
「一緒に同じ高校行こうね。」などと約束を交わした相手もいなかったから、周りだけが慌しかった。
雫は真空状態のような静かな空間に、まるで映画のシーンを傍観するような心地でポツンと一人立ち尽くしていた。 


人によっては、というより大抵の人にとって高校受験は大きな人生の節目であり、その人の今後に大きく関わってくる重要な人生の選択肢を意味するものであろう。
その節目は子の成長の責任を担う親にとっても重要なはずである。
だが、雫の場合は違っていた。
高校に合格したからといって、雫の喜びとは裏腹に、そのことは雫に関わるあらゆる人と両親にとって大したイベント性もインパクトもなく、すぐに坦々と変わり映えのない日常に吸い込まれていった。 


そもそも雫が高校へ行く事を両親は望んでいたわけではないから、雫が合格したからといって、それは彼らにとってさほど喜ばしい事でも素晴らしいことでもない。
雫の父にとっては合格は高校進学選択の前提で、当然と言えば当然のことで、落ちるなどと言う事はあってはならないことなのである。
父の見栄やプライドにとって、子の受験失敗と言うレッテルを貼られずに済んだ事の方が重要だったかもしれない。 


大して夢も希望も無く雫の高校生活が幕を開けた。
高校に入ってからは、よぽど問題が無い限りは、中学のように学校が頻繁に親と連絡を取るなどということはない。
ある意味それは、雫にとって親が干渉する事のない嬉しい世界であった。
夢も希望もない中で、そんな小さなことがとても大きな意味を持っていた。
何故なら雫は親にばれないように、少しずつ縛りから逃れつつあったからだ。 


実は中学の終わり頃から、雫は女友達の影響で詩を書くようになっていた。
そしてそれにメロディーをつけることを覚え、こっそり楽しむようにもなっていた。
雫は楽器を演奏することは出来なかったし、歌うこともなかったが、頭の中で何度も繰り返すことでメロディーを記憶していた。
楽譜の読み書きも出来ないから、とにかく何度も何度も繰り返し記憶に叩き込んだ。 


そういえば前回の話で【父による禁止事項】に『ピアノを習う事の禁止』という項目を揚げてある。
これまで触れていないので説明すると、雫は小学生の頃、日頃要求の少ない雫にしては珍しく、ピアノを習いたいと自分から親に頼んだ事があった。
しかし雫の父は「ピアノの先生になるわけでないのなら、ピアノなど必要ない。」と言って、これを受け入れなかった。
この小さな好奇心と意欲と自ら申し出た雫の勇気は、父によってあっけなく握り潰されたのだった。 


詩を書き、それにメロディーを付けるようになった雫はそのうち、それらを記録する方法として音符による楽譜の他にコード譜があることを知った。
民謡邦楽一色の一家にあって、たまたま父の一番下の弟(雫にとっては叔父)が異色の洋楽マニアだった。
彼はアコースティックギターとエレキギターを所有し、洋楽でも取り分けハードロックを主に聴いていた。
雫はこの叔父にコード譜メインにギターを教わり、こっそりと作詞作曲の楽しみを見出した。 





(続く) 


追記:今更かと思いますが、絵に登場する人物は雫の位置づけを作者なりに表現していますが、 
作者の自画像や似顔絵と言うものではありませんので、ご承知措き下さい。 




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TLTLE:高校生活、思いもしなかった展開1

 






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