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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
培養液(23)

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-23)
(『月の雫』以後、雫と省略) 


脱出・同志を探し求め… 


かくして雫の脱出計画は実現し、雫は自分の手で切り開いた未来に向かって歩み出す。
表向きは2年間の期間限定の就職体験、実際は二度とこの場所に戻らないかもしれない、音楽活動という夢を叶える為の、また閉鎖された機能不全の家族環境から脱出する為のエスケープにも似た旅立ちだった。 



3年間の高校生活を終え、新しい年、雫は誰一人知る人のいない見知らぬ土地で、社会人としてスタートを切った。
右も左も分らぬまま、日々流れ作業的な仕事に追われた。
バンドの為に何か行動を起こせるのは休日しかなかったが、それでも雫は精神的な自由を感じていた。 


その年々の新入社員の性格的傾向があるのか否かは分らないが、同期の新入社員は他人と行動を共にすることを嫌うタイプが多かった。
おかげで雫はプライベートの行動を詮索されたり中傷されたり、社外での付き合いを強要されたりする事もなく、人間づきあいの煩わしさに縛られることもなく、思い通りに音楽の為の活動に奔走した。 


月々の給料を手にする度に、練習可能な範囲で集めたメンバーの元へ足を運んでは、共に音楽活動をしていくに相応しいかを確認するために顔合わせをしていった。
バンドメンバー(同志)として活動する人材の条件は、雫の曲に対する嗜好の度合い、曲のイメージを表現する為の想像力、音楽の趣味、実際のその人のプレイサウンド、勿論容姿にまで及んだ。 


この時の雫は多分、物事を批評する父が憑依したかのように厳しい評価を下す、かなり冷酷な人間だったと思う。
しかし相手も皆、思いの深さと意志の固さを持っているが故、初めての面識にも拘らず雫の厳しさを真っ直ぐに受け止めてくれた人ばかりだった。
(雫はふと思った。彼らはあれからどうしているだろう?自分の求めるものに出会っただろうか?) 


一緒に練習していくにつれて、やっと決まったメンバーであっても技術的な理由で脱退して貰う事もあった。
メンバーを入れ替え、バンドを作っては解散し、何度となく繰り返したが、音源を作った彼と対等に高め合うに等しい人は見つからず、そうこうしているうちにその彼も高校を卒業して進学の拠点を東京に移し、生活を始めた。 


そしていつか、雫が最高のメンバーを見つけて来る事を待ちながら、お互い離れた場所で音楽という繋がりを維持していた。
おそらくこの頃までは、きっといつか一つのバンドで一緒にプレイできると信じていた。
彼も雫も強いエネルギーを漲らせ、夢は叶うものとまだ信じていた。 


雫はその頃、同じ会社で働く一人の女性に出会った。
彼女は雫と同じ職場で働いていた。
彼女とは音楽や思想や日常生活で意気投合し、社外でもよく一緒に行動するようになっていた。
そしてよく飲みにも行った。 


彼女は兎に角不思議と、職種を問わず幅広い人脈を持ち、人間関係が広かった。
かの有名な大物ミュージシャンM・T(老いも若きも知らない人はいない)と郷里が近いこともあり、彼女が十代の頃、もう既にミュージシャンとしてその地位を確立していた彼に妹のように面倒を見てもらったという、にわかには信じ難い経歴の持ち主だった。 


雫は生活費などを節約する為に、彼女とアパートの一室で共同生活を始めた。
弟妹のいる雫にとって、年下の彼女はまるで妹のように違和感のない存在だった。
一人っ子の彼女も雫のことを姉のように慕い、毎日が擬似姉妹のような生活だった。
その頃から状況は大きく変わってきた。 




(続く) 


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TLTLE:同志を探し求めて






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