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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
培養液(24)

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-24) 
(『月の雫』以後、雫と省略)

運命的な出会い 

雫は生活費などを節約する為に、彼女とアパートの一室で共同生活を始めた。
弟妹のいる雫にとって、年下の彼女はまるで妹のように違和感のない存在だった。
一人っ子の彼女も雫のことを姉のように慕い、毎日が擬似姉妹のような生活だった。
その頃から状況は大きく変わってきた。 



彼女と出会い、やがて何かに引き寄せられるように、雫の人生に大きなウェイトを占めるあの4人が現れた。彼らとの出会いは、紛れもなく雫の人生に雫が存在するべく大きな光をもたらした。
雫にとって彼らがなくてはならない大切な存在であるように、彼らにとってもまた雫は必要な存在であったのか。
それは突然眠っていた運命の歯車を動かし、未来へ続く新たな扉を押し開き始めたかのようだった。 


雫と彼女が共同生活を始めたそのアパートの部屋は、畳一畳もないシャワールームとシングルのガスコンロが設置された小さなキッチンがあり、それらを含めて6畳という狭い空間だった。
全室ワンルームだったが、部屋によって広さはまちまちで、トイレや洗濯場は共同だった。
当然家賃はかなり安く、雫達以外は全ての部屋が大学生だった。
中にはもう少し広い部屋もあり、そういう部屋は雫達のようにルームシェアをする者もいた。 


彼らと出会ったのは、引っ越してアパート生活も馴染んできた頃だった。
その頃雫は既にたまたま縁が繋がった社会人のバンドにボーカルとして加わっていた。
いつかはどこかで発表することを小さな将来的願望とするような明らかに趣味の領域から出ないであろう、バンド音楽を楽しむことを目的としたコピー主体のバンドだった。
雫の後輩が高校時代に作ったデモ音源のギターフレーズをコピーする事すら難しく、オリジナル曲をアレンジする技量はなかった。 


声や音感をキープするために止むを得ずそのバンドに参加していた雫にとって、自分のやりたい事とは違うバンド練習は常にジレンマとの闘いだった。
「自分はここで何をしているのか。」
練習に費やす時間と雀の涙ほどの給料から消えていくスタジオ代に、常にそんな疑問が雫の脳裏に張り付いていた。
他のメンバーのように楽しむことは出来なかった。 


あれは未だ夏には早い、ある週末の夜だった。
隣の部屋に住む男子大学生の所に何人かの友人が訪れているらしくやけに賑やかだった。
彼らは少し大きめの音量で音楽を流し、仲間で盛り上がっているようだった。
だが、否応無しに聴こえてくる盛り上がりは些か変わっていた。
雫と彼女はついつい耳を欹(そばだ)てた。 


彼らはあるミュージシャンの、それもある1曲だけを途切れ途切れに聴いていた。
途中で再生と停止を繰り返しては、突然静まり返ったり歓声のような奇声を上げたり、話し声が聴こえたかと思うとピタリと声が止み、かと思うと行き成り合唱を始めたり、音楽しか聴こえて来なかったりする時もあった。
明らかに彼らは普通の人達のように、流行の音楽をBGMにして交友を楽しんでいる様子ではなかった。
が、雫と彼女はそんな様子に心当たりがあった。
何故なら雫と彼女もこれと同じようなことをすることがあったからだった。 


それから月日の経過と共に、雫と彼女はアパートの通路で隣の住人と何度か顔を合わすようになった。
挨拶をしたり面識を重ねていくうちに随分と親しくなった。
月末は、財布の金も底を付く金欠病に貧窮する彼に、雫達が作り過ぎた夕食を差し入れすることもあった。
日常的に会話を交わすようになり、雫たちはやがてあの夜の出来事の真相を知った。 


それはこうだった。
彼は隣の部屋に女二人で住む雫達に非情に深い興味を抱いた。
というのも、大学のサークルのバンドでギターを弾いていた彼ですら聴いたことのないロックのような音楽が、女性二人が住む部屋から不思議な会話と盛り上がりに混じって頻繁に聴こえて来るからだった。 


聴きなれない音楽もそうだが、この狭いアパートにどう見ても学生には見えない女二人が住んでいることに、スリリングな好奇心を抱いていた。
そしてその事を知らされた彼のバンドメンバーも雫達に興味を抱き、探りを入れる為に集ったと言うことだった。
雫の低い声も原因のひとつだったか、つまりレスビアンやゲイだと思っていたらしかった。 


そんなこんなで彼らと雫達は親しくなると、やがて彼らは雫の音楽にも興味を抱いた。
雫の曲を試しに演奏した彼らは思いの外意気投合して雫の曲にのめり込み盛り上がった。
更には雫の技術的要求をも楽しむかのように意欲的に受け入れ、曲が仕上がれば皆で喜び合い、短い期間にバンドとしての結束が深まっていった。 


あれほどメンバー探しに奔走した雫だったが、彼らとの出会いは、何か目に見えない力によって引き寄せられたかのようだった。
まるで赤い糸が存在するかのようだった。
彼らと雫達の出会いは、こうなるべくしてなった運命的な繋がりのようだった。
その後間も無く、同じ職場に勤める雫と彼女の共通の女友人(雫の後輩でもあり、彼女の先輩でもあった)がキーボードとして加わった。 


雫は彼らに対して、これまで家族や友人にすら抱いたことのない『失いたくない』と言う気持ちを強く抱いていた。
口にこそ出すことはなかったが、異性という壁を越えた、同じ目的の為に歩む者としてお互いを尊重し合い必要とする、強い仲間意識を抱いていた。
それは生まれて初めての感情だった。 


そしてこの頃には、高校から音楽で雫と繋がり雫の音楽に命を吹き込み、その情熱を支え続けた彼も、東京に拠点を置き自らの音楽の道を歩き始めていた。
二人で作るバンドという夢はいつしか消滅していたが、雫と彼はとても自然に其々の道を歩き始めていた。 


雫の音楽人生は新たに現れた4人と共に動き始めた。
偶然にも寄り集まったE・ギター、E・ベース、ドラムス、キーボードという4人の演奏者と、共同生活をしていた彼女と雫の奇跡的な出会いだった。
それからの活動は共同生活していた彼女が持ち前の人脈を元に、スタジオ確保やライブハウスの出演交渉やマネージメントを請け負い進められていった。 


彼らと同じ目的を共有して突き進む雫は、初めて真剣に生きていることを実感し感謝した。
その頃は、6人で一つの同じ目的を共有し日々前へ歩む事が、雫自身を納得させる、雫の存在理由だった。
バンドこそが雫の存在価値を証明するものであった。 


彼ら4人と歩いたあの数年間は、18年間雫が過ごした忌まわしい事実、父に押え付けられ外部社会から隔離された機能不全家族という世界で育った事実を、確実に時の過去へと押しやるかのようだった。
彼らとの出会いはそれほど、雫の人生或いは運命と言うものに大きな影響を与えたのだった。 




(続く) 



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TLTLE:運命的な出会い

 

 






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