此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。
	『月の雫』と言う生き物の培養液(28-27) 
	(『月の雫』以後、雫と省略)
	
	このタイトルに於ける私的見解 
	
	その数日後だった。
	正月が越えられないかもしれないと言われた父が、まるで正月を迎えほっとしたようにこの世を去った。
	勿論、自分が歪んだ機能不全家族を作っていたことも、その機能不全家族の中で雫がもがいていた事も気付かず。
	雫と父の親子関係が正常になることは永遠に叶わないままとなってしまったのだ。 
	
	
	生き難さの根源を作った父が雫の前から永遠に消えたことで、雫はその呪縛から解き放たれたのだろうか?
	その答えは未だ分からない。
	しかし明らかなことがある。
	父が亡くなったことで雫と言う生き物の培養液が浄化した分けではないが、おそらく質が変わったということ。
	その培養液はこれから容易に変化する事はないということ。
	その培養液に雫はこれからも、ずっと浸かり続けて行くであろうこと。
	多分、雫がこの世のドアを閉める時まで…。 
	
	雫の人生はこれからまだまだ続いていくだろう。
	『歩んで来た道』だと振り返るには人として未熟である。
	人生に結論を出すには早過ぎはするが、敢えて振り返ってみるなら、機能不全の家庭の中の父の呪縛から雫が解き放たれた期間は確かにあった。
	過去の雫を知る人が誰一人いない新しい環境で、雫が雫自身を動かす事ができた期間、そう、生まれ育った場所とは殆ど接点のない地で自分の意思で音楽にのめり込んでいた期間である。 
	
	雫は、雫自身についてある事に気が付いた。
	勿論それは複雑で多様な家庭環境に伴い個人差があることで断言はできないが、AC(アダルトチルドレン)を克服し生き易い自分になることができるには【期限】があるのではないかということである。
	【期限】などと言うと、ACを克服する【期限】とはどういうことかと疑問に思うだろう。 
	
	ACを克服できる【期限】とは、ある条件により成り立つと考えられる。
	ある条件とは、自分を取り巻く人間的環境がまだ流動的で、変化させる事が可能な状態であること。
	自分の精神的変化や行動によって人生を変えられてしまうかもしれない人間が、自分の人生の環境にまだ存在しない状態にあること。
	その状態に身を置いて居られる時が【期限】なのではないのか。 
	
	つまり簡単に言うなら、良くも悪くも一人暮らしが出来、依存と言う繋がりのある同居人が存在しないこと、結婚によって守らなければならない家族が存在しないこと、それが克服できる期限なのではないか。
	そう考えると、雫の期限は既に消失していて、その期限を復活させるには今居る環境から独立する方法しかないのだ。
	それが出来ない雫が克服するのは不可能なのだ。 
	
	そのような結論を導くと、この物語を読み進めて下さった画面の向うの読者の中には、独善的な正義感とポジティヴ思考による救済意識を抱く方もいるだろう。
	しかしそれは、あくまでご自身が機能不全家庭の柵を知らないからである。
	強い力でぶつかれば跳ね返ってくるダメージも大きい場合がある。
	精神的な歪みに於いては特にそうであるように思う。
	躁鬱のメカニズムにも似ている。
	つまり闘いを挑むだけが生き難さを克服する方法ではないのではないか。 
	
	確信ではないが、不治の病を患った時、人は何が何でも闘おうとする。
	又それが正しい事だと信じている。
	しかし、病も全て自分であるのだと共存して生きる人もいる。
	結局、雫が自身のACの克服について導き出した答えは、雫自身のACの克服は不可能だという結論であったが、自身の生い立ちを辿るうち、ACの自分が生きる人生も自分の人生であると、自分のありのままを受け入れる気持ちが目覚め、ACの自分と共存する方法に気付いたのである。 
	
	何よりも重要な事は、雫は雫自身のACを知ったことである。
	雫は機能不全家庭と言う存在を知り、その影響を知った。
	もしも雫が自分のACに気付いていなかったらきっと、ACである事を知らずに連鎖を繰り返した祖父や父と同じように過ちを繰り返しただろう。
	そして、その可能性は限りなく100%に近かったであろう。 
	
	しかしこれから先、雫が彼らと同じ過ちを必ずするという可能性は100%ではなくなったのだ。
	ACの連鎖に関して言えば、『必ず繰り返す可能性』は限りなく0%に近くなったと言い切れる。
	雫の存在理由を、ACを克服して自分が生き易くなることではなく、自分が犠牲になった事実を教訓にこの連鎖を断ち切ることに置くなら、そういう答えを導き出したことこそがとても重要な意味を持つのである。 
	
	今、過去に満たされなかった思いや出来なかった事を呼び起こして実行したところで、その時にその行動を達成する事にメリットがある分けで、今それをやって何の意味があろう?
	それはずっと雫が抱いてきた疑問だった。
	あの頃に出来なかったことを今やって、同じ満足感が得られるとは思えなかった。
	寧ろ時間と労力の無駄遣いなのではないか、益々精神さえ不安定になるのではないか、そんな恐怖さえ抱いていた。 
	
	しかし、これまで分からなかった結論、こうして雫が自分の生い立ちを辿ることで目の前に現れた結論によって、雫のこれからの未来に光が差し始めた。これからの生き方の方向が見え始めたと同時に、雫は嘘のように気持ちが軽くなっていくのを感じたに違いない。 
	
	雫が自分のACの連鎖を断つこと、つまり今まで脈々と受け継がれてきたにも関わらず、ACによって祖父が、祖父の子供が、父が、雫が、(雫の妹が)閉ざされ続けててきた才能を次の代に歪みのない形で伝える事が、雫の存在理由なのではないか。
	機能不全ではない家庭と家族の中で、閉ざされる事なく才能を開放させてやること、個(マイノリティー)を尊重する事が今の雫の生きる意味であり、今の雫だからこそ出来ることなのでなないか。 
	
	そしてもう一つできることがある。
	それはACと言う沼の中でもがき苦しんでいる人達の苦しみを理解し、今気付きを得た雫が、きっと何らかの力になれるであろうと言うことである。
	生きる為に価値と理由が必要であると言うならば、雫が生きるには十分な理由となるのではないか。 
	
	雫が導き出した答えは、あくまで雫自身のACに対する結論である。
	他のACの人たちに必ずしもこれに当て嵌まるとは言えないが、まだ克服するに十分な環境にいるかもしれない。
	期限にまだまだ猶予があるなら、克服に取り組むことは十分に意味を持っているだろう。きっと答えに辿り着けるだろう。 
	
	雫にとって、この『過去の自分を書き出すこと』は、初め、凄く無駄な事で見苦しい事に思えた。
	だが今はとても多くの気付きを導きだし、大きな意味を持つものとなったのである。 
	(完結) 
	
	
	
	
	
	
	
	
	
	
	
	
	
	
	
	
	
	TLTLE:脱皮
		
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