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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
培養液(8)

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-8
(『月の雫』以後、雫と省略)


父 

しかし、そんな祖父の意気地に支えられている反面、その後も祖父の教育とは全く対極と言える、父の自己中心的な、子供教育には凡そそぐわない思想に雫は縛り付けられながら、青春時代をすごすことになる。


雫が子どもの頃(小学生頃)、大人は夕方5時くらいには田畑仕事を終えて帰宅した。
家に入るなり、雫の母は夕飯の支度に追われた。
祖母は3割ほどお勝手を構った後、風呂を済ませた祖父と共に、7時までNHKの相撲中継とニュースに興じていた。
この家では、一方では慌しく人が動き回り、一方では穏やかな空間が隣り合わせに存在していた。 


その頃、父や弟子が外の仕事から戻り、夕食になる。
彼らが作業着を着替えたり、手足の汚れを落としたりしている間に、相撲やニュースを見終わった祖父は特にものを言うこともなく、畳2畳程の長さの食卓の上座に座ると、祖父用に準備された食事を比較的短時間でさっさと食べ終え、作業部屋か寝室へ消える。
その後、上座へは父が座り、弟子とあれこれ説教や世間話を交えながら食事を始める。
勿論父は、食事というより晩酌である。 


他人行儀の食卓は妙な緊張感に包まれ、弟子達もそう長々と居座る事などない。
何故なら職人の世界は、早飯(速飯)早便(速便)と言って、これに時間が掛かる人間は出世しないと言われ、仕事に於いても見込み無しと見られる傾向があったからだ。
のんびりと食事をしていようものなら、こいつは仕事もできないと判断されるようなものなのだった。
弟子への示しと言う事もあるのだろうが、このことは雫達子供にも然りであった。
おかしな事だが、この家は、ゆっくり味わいながら食事をすることが許されない環境だった。 


それなのに、雫の父は酔うと誰彼構わず捕まえては説教を始める癖があった。
そしてそれは大抵くどくなった。
長居してはいけないのだから、弟子達は必然とこの場を上手く交わす術も身に付けていかなければならなかった。
物事が矛盾している。
弟子達は一人二人と、説教のターゲットにされる事から逃れるように座を立っていく。
残念ながらこの家の食卓は決して寛ぎの場ではなかった。
早々に食事を切り上げる弟子達の本音は、仕事の能力を判断されることより、実は、息苦しい場所から早く逃れたいというのが本心だったに違いない。 


弟子が食事を終えると、後は雫の父が、時に茶の間から居間へと場所を替え、テレビを見ながら気の済むまで晩酌を楽しんでいた。
(これは普通に帰宅した時の父の過ごし方だが、外で呑んで来て午前様になることも度々あった。)
問題は、そのような時に始まる、父の社会論だった。
酔っ払いの父の気分が良く、雫達子供が見たいテレビ番組を運よく見ることができ、同じ部屋にいる時にそれは突然始まる。
一人良い気分で酔っ払った父がテレビ番組やニュースに感化され、行き成り身勝手な社会論を語りだし、周りを洗脳し始めるのである。 


テレビのニュースや様々な娯楽番組に、あーだこーだと文句を言い始める。
決して前向きな言葉や感嘆ではなく、大抵は不満や罵倒ばかりだった。
それは言葉に絹着せぬ、常識ある者なら決して口にしてはならない言葉だった。
(以下、かなり過激な表現なので、身体に障害をもたれる方や、そういう事、人に関わっている方は心して読むか、次の段に回避して下さい。冷静に居られるようお願いします。) 


以下、◆~◆カーソルで読むようにしておきます。 


例えば戦争のニュースなら「こんな奴ら、爆弾を落として皆殺しにすればいい」とか、障害者の番組などには「自分の子供がこんなだったら、俺は子供をブチ殺す。こいつら生きていて意味があるのか。」とか、子供の前だろうがお構いなく、かなりの過激発言を平気でする。
「この世に障害者は要らない。それに使うお金は無駄だ。」それが雫の父の思想である。
自殺には「死にたいやつは死ねばいい」と言い、犯罪のニュースには「犯罪者は牢屋にぶち込んで二度と出すな。」「殺人者なんか有無を言わさず、死刑にしろ。」
もしも障害を持ってこの家に生まれていたら確実に差別され、世間から隔離された生活を強いられていたかもしれない。
そもそも生まれることを許されなかったかもしれない。
◆ 


あまりに飛躍しすぎて、空いた口が塞がらないが、雫達子供に対しても、人に迷惑を掛けるような悪いことには厳しかった。
但し、父自身の幼い頃の悪ふざけは自慢気に話した。
そして天才と人間離れしたものに関しては珍しく感動し褒めちぎる傾向があった。
そういうものに特別な意識を持っていたようだ。
ただし性質が悪いことに、雫の父はそれ(天才、或いは人間離れした才能)を雫に求めていた。
雫は4人弟妹だが、父の無謀な理想を押し付けられるという被害に遭ったのは何故か雫だけだった。
初めて子供を授かった時、父がまだまだ世間知らずの若蔵だったからかも知れないし、高すぎる理想は実は、反面、自分自身へのコンプレックスの現れだと思われる。 


子供は皆、可能性の塊である。
どんな子供も未来へ伸びて行く力を持っている。
目の前の障害を一つ一つ乗り越えながら、可能性の芽は伸びて行く。
おそらく放っておいたとしても、子供は日常生活の中で、自分自身で日々何かを体験し、それによって得るモノが最低限の気付きであろうと、そのことは今よりも未来へその子供の可能性の芽を成長させるに違いない。 


しかし雫の父の教育思想は教育とは名ばかりで、雫に自分のプライドを維持するための理想を押し付けているに過ぎないものだった。
それは雫の未来から尽く夢と希望を奪っていった。
雫の父の教育思想は、その伸びようとする子供の可能性の芽を踏み潰しかねないものだった。
いや、踏み潰していた。


人生には生きていく過程に沢山の障害が存在するだろう。
雫にとって父こそが、雫の人生の最大の障害だった。
そして、その障害を乗り越えたとしても、踏み潰されてしまった未来への可能性の芽は、そこには最早存在しない。
運よく生き伸びていたとしても、それを形成する根本は変形し、社会の中で生きるには終わりの見えない苦痛を強いられるのだ。 






(続く) 




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TLTLE:父







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