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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
『月の雫』の成分(2)
『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-2)
(『月の雫』以後、雫と省略)


「人生波風なく、平凡が一番幸せだ。平凡に暮らす事を求めなさい。」
雫は、祖父が常々言っていたこの言葉だけは納得がいかず、受け入れられなかった。
祖父にとっては、過酷で波乱万丈な生活に翻弄されて否応なしに歩まされた人生の中で、最終的に導き出した答えだったとしても、雫にはこの祖父の思想を受け入れることが出来なかった。

物資に恵まれた世の中に生まれ、まだ苦労や怖さを知らない、夢多き若い雫から将来への希望を奪うような、そんな保守的な思想が受け入れられる訳がない。
祖父の意図する所は分かるが、雫の心のどこかに宿る冷血で野心的な欲望は、この思想を明らかに拒絶していた。

雫が社会に出て働ける年齢になり途轍もなく遥か遠くに(と言ってもいいくらいの場所に)就職して間も無く、そんな祖父が病に倒れた。
1年ほど入院していた。が、その入院は病が既に手の施しようがないほど悪化した状態で発覚したもので、殆ど延命に近い治療だった。
治る見込みがないことを察してか、本人の頑固な申し出で半ば無理矢理退院し、在宅療養に切り替えた。
雫の母の介護に頼りながら、それから祖父は結局10年近く生きた。

死ぬ前の最後の入院の時に祖父があることを言った。
その言葉が、雫の死に対する認識を変えた。
『私の葬式は要らない。私はもう十分に生きたから、私のことなど考えなくても良い。死ぬ者よりも、生きて残されている者のことを考えなさい。』
祖父は、病室のベッドを囲む自分の子供たち(父とその姉弟)に向かって言った。
それから祖父の目が、雫や小さな曾孫たちを見回した。
その目はとてもやさしかった。

雫の中で何かが弾けた。今までどこか縛られていた意識が、一番最愛の人に、
「私のことを考えなくてもいいから、お前はこれから自分の為に、自分の人生を歩みなさい。」
と、言われたようだった。
解き放たれた気がした。
この人が良いと言っている、この人が言う事は正しいんだ、そんな気持ちだった。
あの時の場面と祖父の言葉が雫の脳裏に深く焼付いた。






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TITLE:穏やかな休息




(続く)



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