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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
『月の雫』の成分(3)
『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-3)
(『月の雫』以後、雫と省略) 


病室のベッドの上で、生への執着もなく穏やかに自分の死を受け入れる祖父の姿を見つめる雫の中で、死への恐怖や人への執着が消えた。
そう、「葬式はいらない。死ぬ者よりも、生きて残された者のことを考えよ。」と言った祖父の言葉は、死んでいく人より生きていく人が優先なんだと歪んだ形でインプットされた。
あまりに強くこびり付いてしまったために、それが修正しなければいけないことなのかどうか、間違った意識なのかどうかさえわからなかった。

なぜ、それ程強く刷り込まれてしまったのか?
普通なら『変わり者の偏屈爺さんの戯言』くらいにしか受け止められないだろう。
実際祖父の子供たち(雫の父とその兄弟)は、祖父の言葉など全く気に留めていなかった。
祖父が葬式はするなと言ったところで、常識から考えてもそんな要望は受け入れられる筈がない。
最後の短い入院の寝たきりのベッドの上で祖父が発した数少ない言葉を、祖父の本位として受け取ったのは、訳あって親以上に祖父と生活を共にした雫だけだった。

雫は病室の隅で、祖父のあの言葉を聞いた後にこっそり誰かに確認の意味で訊ねた。(雫の母も居たから、彼女に聞いたかもしれない)。
「葬式しないの?」
「そんなもの、真(ま)に受けるわけないだろ。」
そんな答えだったように雫は記憶している。

あの言葉は祖父にとって決していい加減なことではなくて、思慮深い祖父が心底願い、到達した最後の答えであり希望だと言うことが、祖父と一番接していた雫には痛いほど伝わった。
しかし、残された軽薄な人たちは、祖父の心など汲みもせず、自分の保身のために体裁ばかりの葬式をあげた。

確かに葬儀の規模は故人の存在の大きさを反映するのかもしれない。
が、そのこと以上に、残された者達のエゴや見栄や自己顕示欲を反映していた。
仮にもしも葬式をしていなかったら田舎の世間の目は、その選択肢を望んだ祖父の人間性より、家人に対して故人を蔑ろにした親不孝者というレッテルを貼り付け、子孫の代まで罵り続けるであろう。
だから葬儀が後に残された生きている者たちの見栄の象徴であろうが、寛大な祖父ならこれから生きていくお前達が気の済むようにしなさいという思いであの世から眺めていただろう。

祖父が逝去するまでの雫の生活は、そんな祖父の影響と相反するモノの影響が合わせ鏡のように存在した。
相反するモノとは何か。
それは奇異な思想の培養液とも言える雫の父の教育だった。
雫の父の、祖父に対するコンプレックスに凝り固まった反抗心から生まれた教育だった。
その異質な二つのモノに同時に育まれた雫の中には、一見正常に見えて、実は大きな異変が生じていたのだ。
それは雫に『何かが欠損した思考回路』を生み出していたのだ。

話が逸れたが、『なぜ、祖父の言葉がそれ程強くすり込まれてしまったのか?』その理由は祖父の影響と同等に存在した、雫の父に脈々と根付く『親(祖父)に対する反感思想』によるものだった。
それらによって雫の中に形成されてしまった『何かが欠損した思考回路』によるものだった。

祖父の言葉は、雫の『欠損思考回路』により、極端に歪曲した解釈となり認識された。
そうしたことが更に、雫を人間への執着から遠ざけていった。




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TITLE:偽りの光




(続く)



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