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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   
『月の雫』の成分(5)
『月の雫』に影響を与えた祖父の存在(8-5)
(『月の雫』以後、雫と省略)


雫は思った。
自分が、生まれてから多感な思春期を、正常に機能しない家庭環境で育ってしまったアダルトチルドレン(AC)というものであるならば、もやもやと感じていた自分の生き難い理由や、欠損部分とそれを取り巻く様々なものに、一度しっかり向き合って明らかにしなければいけないのではないかと思った。
そうすればもう少し、心の奥底で渦巻く違和感や虚無感は取り払われ、生きる意味も素直に受け入れられるのではないか、心の油膜が落ちるように目の前の将来が明るくなり、人並みに生きる希望が生まれるのではないかと…。

しかし思考がそういう方向に向いたからと言って、『人道』なるものから逸れた物事の考え方やその内容については、雫自身にとってはあまり重要ではなく、『欠損思考回路』が出来上がった原因とプロセスが興味の対象であった。
この時雫はまだ、まるで人ごとのように沸いてくるただの好奇心にも似た興味が、自分が気付かずにいた、と言うより実は封印していたトラウマを暴き出し直視させられることになろうとは、予想もしていなかった。

一つ一つ問題の答えを導けばコトはクリアに解決され、心は霧が晴れるように開放されていくものと思っていた。
しかしそれは間違いだった。
コトはそんなに容易いものではなかった。
一つをほどけば何かが絡まり引き摺り出され、複雑に絡まったトラウマと連鎖。
それに立ち向かうことは、何重にも記憶の奥底に封印していた物を曝け出し、心の傷を抉り出すことでもあるのだということを、雫はまだ知らなかった。

雫は祖父を尊敬するに値するすばらしい人間だと崇拝にも似た感情を抱いていた。
体力ばかりで頭を使わない家族の殆どは、百姓にはそぐわぬ学識ある祖父を、何かとややこしくて面倒で、理屈っぽく偏屈な人間ということで(おまけに相当頑固者だったことも原因か)、疎ましく思っていたようだが、雫にとっては誰にも勝る師であった。

しかしながら雫が、それほど尊敬する祖父と(訳あって)親以上に関わりを持って生活していたにも関わらず、その人間性を歪めてしまったのは何故か。
その原因を探るには、祖父の生い立ちや環境を推し量る必要があった。
雫にとってこんなにすばらしい人間であると思われる祖父はどんな歴史を背負っていたのか。

祖父が食欲旺盛な思春期の4人の子どもと妻を抱え、家族の大黒柱として働いていたのは終戦間も無くだった。
混乱した戦後を生きるためには、自分の子供への教育に気を回す余裕などあるはずもない。
日々、飢えさせる事なく家族を養っていくのに精一杯で、自分の持つ知識や知恵を、しっかりと子供に伝えるなどという、そんな余裕など無かったのだと想像できる。

雫は職場や社会生活で沢山の人生の先輩(主に60歳前後)と関わるにつれて、雫が育った環境と雫を育てた師(祖父)の教育は、(雫より)15~20歳上の人たちが受けた教育であり、体感してきたものなのだということに気付いた。
まるで、昭和初期からタイムスリップして、違う文化の現代に放り出され帰れなくなって(ついこの前そんなドラマがあった)、時代錯誤を書き換えながら、今に生きているようなものか…そんなことを考えた。
現代の人間社会に馴染めないのはそういう影響もあるのか…と。
少なからず、雫が『生』や『死』や、『自分』や『人間』であることへの自覚と執着がない原因の1つにはなっているような気がする。

祖父の事を書き記していくうちに、雫は今まで考えてもみなかったあることに気付いた。




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TITLE:光と風の気配



(続く)



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