此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。
誕生に母の愛がない理由(3)
19歳の処女の娘が、相手の写真を一度見せられただけで、 全く初対面の見ず知らずの5歳も年上の男と結婚する。
その時の時代背景や雫の母の様子から察するに、この出会いにはこの時点で、 恋愛感情など存在してはいないだろう。
しかし所詮若い男と女、床を共にして夜を重ねるに連れ、性への興味も相まって、 やがてお互いを求め合いセックスへと進展していくというのか。
おそらく、当時のそのような嫁ぎ方ならば妊娠は自然の成り行きであるから、 現代の若者のように妊娠回避の意識はないだろう。
当然のことながら望む望まざるに拘わらず、特に避妊することもしなければ子供ができる。
ここまでの流れを振り返ってみて、もしもたった一度見た写真で恋心が芽生えたとしよう。
そうでなくとも肌を重ねるうちに、そんな恋心が芽生えてきたとしよう。
一目惚れの状態で、或いは恋愛感情が生まれてきた状態で結婚妊娠したなら、 母はその頃の幸せな心情を、きっと照れながらももっと雫に語っただろう。
愛に発展し性交渉に及んだのなら、母はきっと世間一般の妊婦のように妊娠を喜び、 雫を身ごもっていた期間の胎動を喜び、出産の苦しみや感動を話してくれたに違いない。
けれど雫は母からそんな言葉をこれまで聞いたことがなかった。
雫の誕生に、これまで一度たりとも母のそんな幸せそうな様子を見たことはなかった。
子供の頃はその理由も分らず、ただ母は少しクールな女性なのだと信じ、 ただ漠然と疑問を抱いていただけだった。
が、様々なことを経験し大人になった今、雫は切ない現実に気付いたのだ。
母は恋愛感情のない状態から、一つ屋根の下の一つの部屋で、 好きかどうかも分からない赤の他人である大人の男と毎夜を過ごした。
そのように朝晩を共に過ごしていたとは言え、たかだか1年の同居生活で、 喜んで身体を委ねるなどということができるのだろうか?
たかだか1年で愛のある性交渉ができるのだろうか?
もしかしたら母が雫を身ごもったのは合法レイプに等しいのではないのだろうか?
母が結婚の馴れ初めや妊娠出産に触れられたがらない理由はそこにあるのか。
母の心の中では、雫を宿し出産した経緯は触れたくない事実で、 もしかしたら忘れたいほど辛い過去なのではないのか…。
雫の命の始まりを遡ることは、 母があの時の苦悩を思い出すことに他ならないのではないのか。
そう考えると、雫が投げかけた質問に対して若かりし頃の母がとる様々な態度に、 納得できるところがたくさんあり、数々の合点がいった。
母はクールな訳ではなく、自分の産んだ子供が思春期を迎えるほど成長したと言うのに、 未だ心を凍らせたままだったということなのか。
(もう少し続きます…)
TITLE:誕生に母の愛がない理由(3)
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