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此処は、人の道の迷子になってしまった『月の雫』が蹲っている場所です。 『月の雫』の心の葛藤の物語と詩を、絵と写真を添えて綴っています。

   

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-5
(『月の雫』以後、雫と省略)
 

雫の価値 

そんな日々を送りながら、大家族と言う生活環境の中で雫は、いつの間にかいくつかの仕事を母から分担されて与えられていった。 


主な仕事は米研ぎだった。
米は毎朝毎夕2升炊いた。
この一日2回の米研ぎが雫の仕事になっていた。
最初は夜の1回だったものが、そのうち夜と朝の2回ともに増え、小3くらいの時には既に食器洗いも併せて、雫の仕事になった。
夕食の支度に関してはご飯だけでなく味噌汁を作っておくのも雫の役目だった。 


朝の米研ぎは、夜の食事の後片付けの後に研いでおくが、夕飯の分は学校から帰宅してからやらなければならなかった。
けれどたかだか小3の子供、嫌なことはどうしても後回しになる。
学校から帰宅して宿題をやったり自分のことをしていると、あっという間に時間が過ぎて、夕飯の支度をすっかり忘れていることもあった。 


少し話がもどる。雫は小児喘息を患っていた。(病気の記憶は5歳位からしかないが、アトピーもあった。)
雫は、ちょっとした運動や気象などの外的変化で発作を起こしていたので、当然田畑仕事の手伝いに引っ張り出される事はなかった。が、家にいたからといって、静養していたわけではない。
大体は家で炊事洗濯などを任されることが多かった。 


寧ろ田畑仕事と変わりなく体力の要る仕事ばかりだった。
大人数…洗濯だって、畑仕事の汚れ物も沢山あるので、標準の4人家族とかの一般家庭の2倍以上はある。
量は半端じゃなかった。
時に前日の干しっ放しを取り入れて畳む、それも雫の仕事だった。
この家では、例え小学生の雫であっても、与えられた仕事をこなすことが優先順位の筆頭であったために、必然的に遊びや勉強の時間が削られていった。 


話が逸れたが、そもそも今の時代に2升の米を研ぐということを想像できる人がいるだろうか?
宿屋か食堂か惣菜コーナーに従事している大人ですら、もしかしたら想像できないかもしれない。
その人達ですら、今の世の中に市販されているような、ササッと2~3回すすげば済む米しか扱ったことがないのではないかと思う。
雫が与えられた米研ぎという仕事はそんな楽なものではなかった。
自家精米6分搗きを扱い、研ぎ方も市販米と比較にならぬほど難しかった。
というより、炊き上がりの飯の味に大きく影響するため、父によって、研ぎ方にも細かな条件をつけられていたのだった。 


言い忘れたが、この頃、朝はガス炊飯器を使っていたが、夜は薪を燃やして鉄釜で炊いていた。
米農家の、それも雫の家だけの拘りであって、他所の家の食卓はとっくにガス&電気による文明の利器をフル活用していた。
そしてその面倒極まりない迷惑な拘りの仕事が、いつしか、雫の仕事になっていたのだった。
終いには薪で火を熾してご飯を炊き上げるまでが雫の仕事になっていたのである。 


米農家の大黒柱(一応父のこと)は兎に角米の味に煩かった。
「今日の飯は研ぎがあまい」とか、「もっと力を入れて研がないダメだ」とか「水加減がマズイ」とか、「ムラシが足りない」とか、毎回何かと文句をつけた。
一ヶ月に1回くらいしか美味しいと言っては貰えなかった。が、雫はその時の褒め言葉を嬉しいなどと感じたことは一度もなかった。
父は米の通(つう)が望む理想の味100パーセントを1日たりとも手を抜かず、小学生の雫に求めるのだった。 


丹精こめて一年と言う月日を掛けて口に運べる物となる『米』、小学生の雫でも、そのことへの苦労や感謝は勿論理解できた。
だからこそ父に対して雫は、「マシに食えればいいじゃないか!」と心の中で思っても、反発できない苦痛があった。
でもその苦痛は本人しか分からないことだった。
子供の雫が子供らしい生き方を奪われてまで負わされる家事仕事の責任に疑問を持つ者など、この家には存在しないのだった。 


雫がこんな事を完璧にできたからといって、今、何の役にも立たない。
今の世の中、完璧精米で、研ぎ過ぎると逆に味が落ちるとか、下手したら研いではいけない無洗米などもあるのだ。
おまけに本格かまど炊きもスイッチポンだ。
雫は自分の子供時代を振り返ると空しかった。
もの凄く無駄な事ばかりを叩き込まれた気がして、それに費やした過去の時間や犠牲にしたものが今何の役にも立たず、自分を守るものにさえならず、寧ろ生きることに不器用でさえあることが疎ましく、自分に価値を見出せないことが空しくて仕方なかった。 


雫の生活環境には今思えば、誰の口からもそれらの仕事を労ったり感謝したりする「ありがとう」の言葉が発せられることはなかった。
なぜならそれらの仕事は、例え女や子供でも、やれて当たり前という位置付けだったからである。
やれなければ無能さを非難され、罵られ、役立たずの烙印を押されるのだ。
何かをするから、又何かが出来たからと言って、感謝や労いの対象ではないのだ。 


雫が子供時代を生きたこの小さな世界での人間の価値は、完璧にやれて『100』になるのではなく、そこが『0』のスタート地点なのだ。
ここでは、完璧に出来た所から、人間の価値が発生するのだ。
雫の子供時代が将来何の役にも立たないことにつぎ込まれようが、雫がそれらを完璧にこなそうが、この小さな閉鎖世界では出来て当たり前と言う、そこからが『0』なのだった。 



(続く) 



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TLTLE:私とワタシの役割





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培養液(4)

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-4)
(『月の雫』、以後、雫と省略)

母 


この頃、家の殆どの権限はまだまだ祖父にあり、大黒柱的存在も祖父だった。
家族は父を筆頭にして、何かを取り決める時も、行動する時も祖父に伺いを立てるのが常だった。
その状況はある意味、父が30歳をとうに過ぎたというのに、相変わらず自分を認めて貰えず親離れすることも許されない、できない、体の大きい息子のままの状況だった事を意味していた。 



あれは雫が小学校に入って暫くたったある日のお昼時だった。
雫は学校から帰るといつものように、奥の部屋で足を投げ出し、どこの子供もするように漫画雑誌などを広げ寛いでいた。
すると間も無く玄関が騒々しくなった。
何事かと数十センチほど開いていた引き戸の陰から隠れるように様子を窺っていると、父や祖母が沢山の荷物を運び込みながら玄関でごたついていた。
何やら誰かを引き連れているようだった。 


父が先に足早に玄関に上がった。
祖母が後ろを振り返ったまま話しながら靴を脱いでいた。
その後ろから色白の若い女性が入ってきた。
体が小さい訳ではないが、とても緊張した表情で、町娘のように小奇麗で、どこか存在感の儚げな女性だった。
その女性は入院していて、その日退院して来た様子だった。
それが初めて、雫がきちんと母の姿を認識した瞬間だった。
が、その時その女性に対して、子供が母に抱くような感情は湧かなかった。
その女性のよそよそしい姿と表情が、雫の脳裏に深く焼き付いただけだった。 


あの日、突然現れて一つ屋根の下で暮らし始めたその女性は、少しずつ家周りの畑仕事やお勝手仕事をするようになり、家の中に馴染んでいった。
しかし、雫は暫くその女性に呼び掛けることが出来なかった。
「お母ちゃん」と呼ぶことに随分と戸惑いと抵抗を抱き、最初に声に出して言うことにとても勇気が要った。
その時のプレッシャーが大きく、いつそのことばを言ったかは雫の記憶に残っておらず、出会いの場面だけがこびり付いた。 


そうこうして一ヶ月もしない間に、田畑仕事は病み上がりの母にもまともに任せられるようになり、総勢13人の食事の支度も大方が母の仕事となった。
勿論食事後の大量の食器の片付けもである。
大皿盛りが多く、取り皿程度の皿の数とは言え、13人もの食器の数は決して少ないものではなかった。
賑やかで慌しかった夕食の後、それとは裏腹にシンと静まった茶の間と台所で、雫と母は後片付けに追われた。 


陶器の茶碗や皿がぶつかり合う音が塊のように絡まりあって、台所だけ残したぼんやり明るい部屋の隅の照明の中で響いていた。
そこは雫と母以外、人の気配がなく、空気さえ固まるように深い静けさだけが二人を包んでいた。
何せ田舎の人の就寝時間は早くて、母が退院してきてからは雫が祖父と寝ることも極たまにしかなくなっていたこともあり、祖父母は夜8時前には既に寝ていた。
弟子達(当時住み込みだった、職人である父の弟子達)は食事後は早々に自分達の部屋に篭るのだった。 


半年もすると、雫は就寝前に祖父のお伽話を聞くことも、一緒に寝ることも全くなくなった。
祖父母が疲れるからと言う理由で、一緒に寝るのを母に止められたのだった。
これは母が雫と寝たかったからではなく、単に嫁姑の確執に絡むものだったようだ。
何故なら、母は、寝る時に雫が密着することを嫌い窮屈がり、「真っ直ぐ寝なさい」「もう少し離れて」といつも怒っていたから。
本人は軽い気持ちで言っていたかもしれないが、小学生くらいの子供にしてみたらこの状況は、自分の存在を母に拒絶されているという思いを植えつけるものだった。 


拒絶されることによって生まれた孤独や悲しみや不安は最初のうちこそは寂しく切なくとも、雫が自分の意思でそれに慣れるまでもなく、すぐに環境が変わった。
実は小1の中後半頃に母が再び半年ほど入院したのだった。
その時の入院は期間は短かく、小2にあがった時には再び一緒に生活してはいたが、雫の幼少時代はこんな風に母が家に不在な状態が多かったがために、雫が母と接した年月と体験はとても少なく、二人の間には、親子らしい関係は皆無に等しかった。
雫には、母に頭を撫でられたり抱きしめられたりという、記憶に残るほどの親子のスキンシップは存在しなかったのだ。 


そんな日々を送りながら、大家族と言う生活環境の中で雫は、いつの間にかいくつかの仕事を母から分担されて与えられていった。 



(続く) 



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TLTLE:あなたが私のお母さんですか?

 

 




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培養液(3)

月の雫』と言う生き物の培養液(28-3)
(『月の雫』以後、雫と省略)

父、祖父、その位置付け 

その数年後、村が開けてくると、町病院への交通手段も増え、診療所は閉鎖され、その女医先生も何処かへ行ってしまった。 

この頃、雫の父は仕事が遅かったりあちこちの仲間内で呑んだりしていて帰りはいつも遅く、帰宅後、子供に関わるということはあまりなかった。
父だけが特別な訳ではなくて、父の職業の人たちの日常はそれが当たり前のようだった。
7歳くらいまで、保育園と診療所の記憶はあるのに、雫には父母との幸せなスキンシップの記憶は殆どない。
日常、あまり接していないから当たり前といえば当たり前だが。 


でも、父は、正月など親戚縁者が集まった時に限って、それなりに成績良く賞状なども多かった雫を自慢話の引き合いに出した。
雫の父はそれ以外の時は、決して雫を褒める事がなかった。
まるでただの父の見栄とプライドの為の道具であるかのように、雫は父の都合のいい時だけ人前に引き摺り出され晒された。
この時ばかりは無理やり膝の上に座らされて、役目が済むと、「子供の寝る時間だから、早く寝なさい。」と追っ払われるのだった。 


ただ、父母とのコミュ二ケーションはなくとも、祖父が親代わりのように、教育や教養など様々な面で面倒を見ていた。
おかげで雫は小学校に入る前には読み書き、足し算や引き算ができた。
夜は毎夜、昔話やお伽話、祖父の体験など、興味深い話を眠くなるまで聞いた。
祖父は繰り返し強請(ねだ)る雫に嫌な顔ひとつせず、根気よく付き合ってくれた。
雫は毎日、夜、寝入る前の布団の中のお伽話を聞く時間が楽しみだった。

それだけでなく、夜間に雫が喘息発作を起こした時、雫を背中におぶってバイクにまたがり、真っ先に病院へ飛ばすのも祖父だった。
両親はというと、発作で苦しんでいる雫を別段気に留める様子もなく、「いつものことだから」と暢気に放っておく始末で、父は相変わらず晩酌に興じていた。
祖父はそんな二人を何度か叱り飛ばしたことがあった。
雫は家族の中で、両親とは比較にならないほど、祖父と過ごした時間が多く、雫のことを一番親身に気に掛けてくれたのも祖父だった。 


回りの人は冗談で、「おじいちゃんの子だ」と言ったが、本当に雫は祖父の子供のようであり、祖父が雫の父親のようだった。
それほど、雫にとって祖父は身近であり、逆に本来、密接な関係でなければならない父母との関係は希薄だったということだ。
(念を押すが、祖父と雫は親子ではない。) 


この頃、家の殆どの権限はまだまだ祖父にあり、大黒柱的存在も祖父だった。
家族は父を筆頭にして、何かを取り決める時も、行動する時も祖父に伺いを立てるのが常だった。
その状況はある意味、父が30歳をとうに過ぎたというのに、相変わらず自分を認めて貰えず親離れすることも許されない、できない、体の大きい息子のままの状況だった事を意味していた。 




(続きます) 


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TLTLE:居る場所

 






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培養液(2)

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-2)
 (『月の雫』、以後、雫と省略)


保母さんと女医さん 


積もり積もった過労が影響してか、雫が3歳になった頃、雫の母は弟を生んだ後体調を崩し、それから雫が小2くらい迄何度も入退院を繰り返した。
つまり子供にとって一番大事な幼少女期時期に、一番身近な人として脳に記憶するべき母の存在が、雫には欠落しているのだった。 


3歳頃の写真が数枚あるが、その中に母や父に抱かれた写真はなかった。
たった一枚、雫が胸に抱き上げられて写っていた写真があったが、抱いているのは保育園の先生だった。
保育園と言うより託児所と言った方が正しいか。
雫の幼い頃の記憶に残っている人といえば、母や家族ではなく、この保育園の二人の女先生と、喘息の治療などの為に頻繁にお世話になっていた村外れの診療所の女医先生だった。 

雫の母は入院してからも、時々帰宅する事があったが、おそらく一時的な自宅療養のためか何かだったのだろう。あまり子供とは接していなかったようで、雫には母と顔を合わせてスキンシップをした記憶がなかった。
母の病が完治し退院して家に戻ってくるまでの(小2くらい)家族との時間より、この保母さん二人と女医さん、三人の女性と過ごす時間の方が多かった。 


保育園時代は、親の迎えで殆どの子供が帰宅してしまい、いつも雫は最後の一人になることが多かった。
そしてポツンと一人折り紙をやっているそんな雫を迎えにくるのは、母でも父でもなく、田畑仕事を終えた祖父母だったり、弟子だったりした。(父は職人で3~4人の弟子がいた。培養液(1)参照)
その迎えの時間まで、とてもよく雫の面倒を見てくれたのが雫の記憶に残る保母さんのうちの一人だ。 


でも、その保母さんは進級と同時に担当クラスが変った途端、雫が呼びかけても忙しそうに通り過ぎて行く様になった。
彼女が、「ごめんね。」と右手で雫を払うように足早に通り過ぎて行った映像が雫の脳裏に焼付いた。
雫はとても淋しい気持ちを覚えた。 


物分りのいい雫は、彼女が新たに面倒を見なければならない下のクラスの園児たちの先生で、自分の先生ではなくなったことを察した。
もう迷惑かけてはいけないのだ、頼ってはいけないのだと子供ながらに悟った。 


雫はしょっちゅう、保育園の敷地内にあった社宅にも入り浸っていた。
日曜ともなると訪れては、日本人形を作る手芸好きの副園長先生の手仕事に夢中になった。
手芸に使う布の美しさも魅力だった。
雫が帰るとき、その先生は、決まって、人形の着物に使った美しい和布のハギレを分けてくれた。
和服や帯用のその美しい布を貰えるのがとても嬉しかった。
でも、やがてその保育園は移転し、好きだった先生も何処かへ行ってしまった。 


もう一人、診療所の女医先生には、小学校へ入るまでも入ってから暫くの間も、ほぼ毎日お世話になっていた。
ちょっとした天候の変化や体調の変化で喘息の発作を起こすし、すぐ風邪を引くので、吸入やら注射やら薬やらでほぼ毎日お世話になっていた。 


小学校に上がってからは、治療に通ううち、雫はそこで患者さんの薬を包んだり(頓服のように、10センチ四方くらいの四角い紙で薬を包んでいた)、煮沸した器具を専用ピンセットで滅菌ケースに移す手伝いをしたりするようになった。 

先生は何かお手伝いする度にとても上手だと褒めてくれた。
長い時間そこに纏わり付くように存在しても、雫のことを邪魔にすることもなく、自分の子供のように接してくれた。
雫もそんな先生を母親のように慕い、すっかり甘え、特別な心象を抱いていたと思う。
雫の存在をしっかりと受け止めてくれる人といる、診療所での時間は楽しかった。
その映像は今でもはっきりと思い出せるのだった。 


ある時、診療所の奥の空間に女医先生の生活が存在することを知った。
家族がいて雫より小さい子供がいて、先生はその人達のお母さんであり、雫の母親ではないのだと気付いた。
それから雫はあまり長居しないようになった。 


その数年後、村が開けてくると、町病院への交通手段も増え、診療所は閉鎖され、その女医先生も何処かへ行ってしまった。 


(続きます) 





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TLTLE:命は混濁する培養液の中







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培養液(1)

『月の雫』と言う生き物の培養液(28-1)
(『月の雫』以後、雫と省略)

幼少期、母の不在、異物だらけの培養液 



雫は小さな村(部落)で生まれた。そこは、30戸ほどの小規模な開拓移民の村だった。
実に多地域の出身者が集まって独自の文化を持ち、それぞれの世帯を構えていた。
だから、日本語とはいえ、微妙なイントネーションや方言などの言葉も違えば、習慣的な食べ物も違った。
冠婚葬祭などのしきたりや神仏の祀り方も違った。
 
例えば近所の友達の家を訪れると、毎回行く所行く所、目にする物が初めてづくしだった。
分かり易く言うと、例えばお正月など、あちらの家はあんこ入りの餅だが、こちらの家は何も入っていない餅、あちらは丸餅だが、こちらは角餅と言ったように、まるで各々の家に郷土料理があるようだった。
『隣りの家はよその県』と思って頂くと分かり易いだろう。

村も年月を重ねると、ご近所付き合いが進むにつれお互いの理解も進み、それぞれの文化が融合し新しい文化となり、世代を重ねるにつれ定着していった。
冠婚葬祭業者が介入してきた事もあって、文化も村独自というより、都会の情報に倣った一般的な方法に統一されていった。 


村は、その殆どの家が専業農家だった。
その中で雫の家は数少ない兼業農家だった。

父は職人で3~4人の弟子を持っていた。
その頃は祖父母も健在で、まだ結婚していない、父の3人の姉弟が同居していた。
大人だけで約10人、それに雫と弟、多分その下に妹が生まれた頃もまだ、この家族編成だったようである。
少なくとも総勢12人以上の大所帯だった。
それは普通の家庭とは日々の生活も随分違っていた。 


雫が小3くらいまで、父の姉弟はまだ結婚していなかったのでこの家族編成が続いたが、そんな大家族の中にありながら、小2くらい迄の雫の記憶の中には、母の存在の記憶が無かった。

雫の母は嫁いでから一日の大半は大家族の炊事や田畑の労働に駆り出されていた。
雫が生まれてからもその生活は育児が加わったというのに、変わることはなかった。

積もり積もった過労が影響してか、雫が3歳になった頃、雫の母は弟を生んだ後体調を崩し、それから雫が小2くらい迄何度も入退院を繰り返した。
つまり子供にとって一番大事な幼少女期時期に、一番身近な人として脳に記憶するべき母の存在が、雫には欠落しているのだった。 





(続きます)






200881172251.JPGTLTLE:異物だらけの培養液の中

 

 


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いと難しきかな人間業



 

人間の社会なのに、実際はあまり重要視されない人間性や人間関係。 

何事に於いても、『割合の高いもの=全体』となり、『割合の高いもの=全体=正当』としてまかり通り、それ以外のものは蔑視され疎外される風潮がある。如何にも極当たり前にその図式は日々の中に存在しているが、侮るなかれ、ストレスの根源は人間関係にあり。(少なくとも) 

今まで縁あって色々な人と出会って、ふと思ったことがある。 職業差別をするわけではないが、私は、ある職業の人達がどうも苦手だ。逆に、そうでない別の職業の人達とは気を使わずに素の自分でいられることに気付いた。(世間一般ではその逆の場合の方がごく普通のようだが。) 

苦手の根拠は何かと考えた時、こんなことに思い至った。苦手と感じるある職業に携わる大半の人達について、いろんな意味で私は言いたいことが言えない、私の伝えたいことが伝わらない、そして言っても理解してもらえない、そんな現状がある。 

そうなると自分を封じ込めて、理解して貰おうなどと思わずに、相手の思考を受信することのみに専念する。相手は気持ちよく自分を発信するわけだが、こういう相手に限って自分勝手にこちらのことを相性がいいと誤解する。実はこれが相当負担でストレスの根源のようである。 

苦手や嫌いなタイプの人と相対することをしなくて済むなら、又、せめて真っ向から本来の自分に接してもらえるならと思うのだが、それが成り立つほど柔軟な人間関係に恵まれているわけではないし、ともすれば、収入や今ある信頼を損ねかねない。嫌ならそういうタイプと接しなければいいといって繋がりを断ち切れるほど、世の中は甘くない。 

そんな不本意な人間関係から開放された時に、その反動で自分の中のストレスなるものが発生する。(開放されて良かった~、とはいかないようである。) 

このストレスは往々にして、こちらから発する電波を解析するシステムが相手側に備わっていない場合に発生することが多い。全く畑違いの分野の人に、別分野の専門的なことを、説明なしで実行させようとしているようなものである。 そして根本的な問題は、私に、相手に伝えようとする信号を相手が理解できる信号に置き換えるシステムが備わっていないということ。 

私に限らずどちらかといえば、多くの人がそうなのだと思う。自分の感性のシステムを止めるか、稼動レベルを落とすか、最悪パソコンに例えるなら新しいソフトを入れるしかない(この場合、人間なのでかなり負荷が掛かる)ということである。 

この際、送受信に関して、そういうシステムが全く備わっていないか(要するに、超自己中or超鈍感)、逆に高度なもの(才能、特技、本能、生甲斐として既に高い社交能力)を備えていたら、人対人の付き合い(人間関係と一言で収められない係わり合い)がどんなに楽だろう。いっそのこと極端に前者か後者のどちらかだったらいいのにと思う。 
そういう人が羨ましいと思う。 (前者も後者も案外世の中にはたくさんいる。) 

自分のストレスの発生のメカニズムとか考えたら、なんて面倒なやつなんだと思ってしまう。たまたま、ここまで連ねたことは人の内面から派生することだが、外見から派生する人間関係の問題も然りだと思う。でも、この問題の重要度は、同じようなタイプの人や、同じようなジレンマを抱えている人にしかわからない。 


私はこうして、たまに自問自答して、浄化するわけですが、何か吐き出したいことがあれば、お気軽にコメント頂ければ嬉しいです。『同調・共鳴』は、思った以上に重荷がとれて浄化されたりします。 
ただし、依存は別物なので注意した方がよいでしょう。




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TITLE:集合体







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Retreat(隠れ家)




薄暗がりの箱の隅に
秘密の通路をこっそり作って
慣れた足取りで足早に潜り込む

泳いでいた世界というより
泳がされていた世界で
温い酸素がゆっくりと身体中を巡る

逃げ込むのは
過去の時間に取り込まれたままの意識

手を伸ばす事を忘れてしまった
どちらかと言うと回帰した安堵の境地で
お帰りと迎えてくれる皮肉たち

長く居過ぎたんだと思う
罪状の曖昧な執行猶予に
甘んじてしまうかのように
最早抵抗も闘いも捨てて
惰性に塗れてしまったこの身

居心地に慣れてしまったのかな
あれほど探していたID
その作業すら意味をなさない
スターターの乾いた音を鳴らして
覚悟を決めたのは自分自身だというのに

もうずっと遠くの
ただの勘違いくらいにしたくて
ゴールの見えない迷走に息切れしてる

ああ、隠れ家まであと少し









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TITLERetreat(隠れ家)へ続く







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時計




初めて自分で働いて手にしたお金で
一番最初に買ったものは何?

ぼくが買ったものは時計
無意識のはずなのに
欲しかったのは時間

それは生きてきた
巻き戻したい願望を押し殺した時間だったり

思い通りに手中にあるというのに
何度も確認しなければ不安になる時間だったり

息を切らして過去から脱出してきたぼくは
誰かに心を見透かされるのが怖くて
読み取られまいと必死に呼吸を整え

少なくとも明るい未来を信じていたから


最初に選んだものは
時計だったんだ
時間はいつしか一人歩きするというのに


ぼくはもうくたびれたよ
あまりに長くそれを追いかけ過ぎて

別のものを手に入れられそうにない
だからただ時間の波に漂っている

時計の文字盤の上の
ゆったりと生まれている渦に翻弄されている

此処に在りたいと願う気力さえ
奪われたまま







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TITLE:時計




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出来上がりはカステラ?



 

籠に材料がのっている 

小麦粉、卵、バター、牛乳、砂糖、ベーキングパウダー、 
その他個性的な具材やトッピング材料 

出来上がりはカステラ……一人の人間 

適正な分量で適正な状態で混ぜる…正常な愛情を注ぎ育てる 
適正な時間で焼く…正常な愛情を注ぎ育てて見守る 

美味しいカステラができる…一人の至極健全な人間ができる 



材料が足りないとどうなる?出来損ない?個性的? 
材料が上手く混ざらないとどうなる?出来損ない?個性的? 
生焼けは追い焼きで何とかなるけれど焼き過ぎたらどうなる?出来損ない?個性的? 

その他の混ぜ込み材料は魅力だったり病的だったり… 
過剰なトッピングも善し悪し… 

それを美味しいと思う人がいるから世の中が成り立っている? 


人間ってカステラみたいに思えた 
カステラが人間みたいって思えた? 
私って、笑っちゃう 

私ってどんな状態なんだろう… 
見た目はカステラだけど、ちょっと材料が分離してるのかも?(笑) 




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TITLE:カステラになる?






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水滴




水滴…

これはあなたの心に…

これはわたしの心に…

これはだれかの心に…


こころが乾くと苦しいよ


だから…

これはあなたの心に…

これはわたしの心に…

これはだれかの心に…




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TITLE:水滴



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夜明け




ここから始まろう 


きみと出会った 

今から始まろう 

そう心の中でつぶやいた 

新しい夜明け 




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TITLE:夜明け





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3月11日(金)に発生した東北地方太平洋沖地震により、
亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。
そして被災された皆様、そのご家族の方々に、心よりお見舞い申し上げます。


私は今、[生きること]の意味をこれでもかというほど突きつけられて、
このサイトの物語を続けるべきか否か自問自答しています。

ああ、被災者のなんと強いことか

私が一人間として進むべき道…
私が私として進むべき道…
私が今置かれている人生の中で、
守らなければならないもののために進むべき道…

自分自身を信じることと自分自身を捨てることの中間で、
私は自分の道を見失っています。

しかしながら昨日の生存者救出の奇跡を知り、
そしてもしやまだ生存者がいるならばその生きようとする意志こそが報われるよう、
その思いには嘘偽りなく、私は心から祈っています。

今も尚過酷な避難所生活を強いられている被災地の皆様が、
一日も早く平穏な生活に戻られる日を願い、状況の日々の好転を願い、
ただただ心から、一日も早い復旧復興をお祈り申し上げます。

このような私の思いでもどうか届きますように…







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純粋に



 

何の駆け引きや打算もなく寄り添う 
人と人がそうあることなんて… 
…不可能 

雑多な切れ端を組み込み絡まりながら 
無意識に互いを探り合う 

表層しか反応しないアンテナを立てた機能不足は 
イコール幸せという図式に何の疑問も持たず生きる 

いい人生だったと息を引き取る 
もちろんそれが望んだ幸せ 

使い方の説明もないまま 
感度の良すぎるアンテナを付帯した機能過多は 
使い道のない世界でガラクタ化する 

不法投棄禁止の看板だらけの世の中で廃棄もできず 
いい人生だったのかと最後まで自問自答して息を引き取る 
私の幸せって何? 

考えることを身に付けてしまった人と言う生き物に 
純粋なものなんかあるのだろうか? 
辛うじて深層にしがみ付いている私の純粋が 
疑問符を払い除けながらもがき続ける 

何かを望んでいる 
「今度生まれてくるなら…」なんて 
まだ性懲りもなく燻る未練を引き摺って… 
誕生を司る得体の知れない力に私は願っている 
路傍の石にして下さいと 

今度生まれてくるときは 
どうか路傍の石にして下さい…と 




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TITLE:そこに見えるもの

 






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水に沈む糸玉のよう…



 

 

私の過去という水の中に沈む 
絡まった糸玉… 

漂う一筋が初めか終わりか 
慎重に手繰り寄せたところで 
核心に辿り着く保障もない 

偶然という無数の細い糸束で綯われ 
漠然とそれは命という名で存在し 
引き上げようとすればするほど 
絡まったその結び目はきつくなる 

隙間にわずかに含まれた気泡で 
必死に呼吸をする 

気泡が消えるたび 
沈んでいく… 
吐き出された弱音ばかりが漂う… 

大丈夫だから 
私はまだまだ大丈夫だから 
絶対大丈夫だから! 

辛うじて少しばかりの 
ポジティブを確認するように 
ゆっくりと大きく深呼吸する 

…少し浮き上がる 


 





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TITLE:水に沈む糸玉








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波紋





 


小石を1つ投げ入れる 
水面に広がる波紋 
呑み込んでは吐き出し 
連鎖する 

沈んだまま 
浮き上がらない私 
水底から仰いでも 

水面に広がる波紋 
呑み込んでは吐き出し 
連鎖する 

一生懸命もがいては 
光を掴もうと 
手を伸ばすのに 

水面に広がる波紋 
呑み込んでは吐き出し 
連鎖する 

私は…
小さな泡にさえなれなくて…
吐き出されることもなく消える
骸だけがただ呑み込まれていく








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TITLE:波紋









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Fence~囲いの中



ここから出たいなぁ… 

と空を見上げて呟く 

そしてそのあと 
きみは暫く考えて 
  
ここでいいや! と言うだろうか 
ここから出せ! と言うだろうか 
ここから出る! と言うだろうか 

どうする? 

私はどれも行ったり来たり… 




_DSCN7429_20080803102124.JPG
TITLE:Fenceから覗く 



*************************************** 

『行ったり来たり…』の後を、悲観的思考(ネガティブ)と楽観的思考(ポジティブ)両方の視点で、 
可能な限り想像してみた。(突拍子もない非現実的な空想は取り敢えず横において置く。) 
一番気に入ったのは、花が咲き→実が成り→実がこぼれ→フェンスの外→鳥が運ぶ、その後は色々…。 
(実がその下のドブに落ちるとか、鳥が糞詰まりするとかも考えた。(笑) 
フェンスの中から見る外の世界は意外に興味深くて、自分の立ち居地を実は案外気に入ってるのかもしれない。

 






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思いの行方



今 きみの目には 
何が見えるの? 


今 きみの想いは 
どこに向かってるの? 


見つめる先にあるものは 
未来に繋がっていますか? 




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TITLE:見上げると…







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終日





化粧を落とす 
右目だけアイラインが残る 
丁寧に洗い流すのに 
右目だけ何故かアイラインが残る 

本当の私と… 
闘ってきた私… 

上っ面だけの笑顔を振り撒いて 
偽りで固められた自分を削ぎ落とすように 
しがみ付いている最後の嘘を洗い流す 

本当の私に一番近い私が 
限られた空間で静かに呼吸を始める 
しびれを切らしたようにゆっくりと伸びをする 

所々途切れた糸を結びながら 
僅かな自由の中で希薄な自分を見つめる 
このまま少しでも夜明けに近く… 

いつしか記憶すら留めず 
眠りに突き落とされる 
闇の底に押し込められる 

夜明けとともに目を覚ますのは 
繰り返してきたいつもの私 
時に流されぬよう生きるのに精一杯の 
ただしがみ付いて生きている私 







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TITLE:終日









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自由と不自由





私の自由が 

あなたの自由だった 
それが居心地のいい世界だった 

その世界を守るため 
私はいつしか不自由になった 
私の不自由が 
あなたの自由を支えた 

あなたの自由が 
私の自由だと錯覚した 
幻の居心地は 
静かに崩れていった 

不自由な私の自由は 
あなたの自由を不自由にした 
居心地のよかったあの時の世界を 
取り戻そうとした 

私の不自由が 
あなたの自由だと知った 
私は私の自由を縛りつけ 
私を不自由にした 

押しつぶされた私の自由が 
悲鳴を上げていた 
手を突き出して 
自分らしさという未練にしがみ付いた 

私の自由が 
あなたの不自由になった 
私の自由は
あなたの不自由に気付かない振りをして 

新しい罪悪感を引き摺りながら 
…歩き始めた 

私とあなたの距離は遠くなった






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TITLE:自由と不自由








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居場所

 

 





足下の土を誰かが掘ってる 

ぽろぽろ崩れていくんだ 

無神経に高笑いしながら 
蔑んだ目はこちらに視線を投げる 

何見てるの? 
どうしてそんな目で見るの? 
何故笑うの? 
何が可笑しいの? 

人を卑下して優越感に浸る醜い生き物達 
得意満面に空っぽの言葉を並べ 
自分達こそが優秀であるかのように 
異質な者を排除しようと目論んでいる 

何が優れて何が劣るというのか 
奇異の目で引いた境界線の内と外 
(異常なのは平気で人を侮辱するあなた達) 

ストレスの捌け口に据えられる嘲笑のターゲット 
目敏く見つけては餌食にする愚者 
誇りと自信を奪い突き落とす 
異質な者を排除しようと目論んでいる 

それが賞賛すべき生き方だと言うなら 
そんなくだらない器用さなど要らない 
そこに人間性の価値を量ると言うなら 
そんなくだらない価値観など要らない 


ここのところずっと行き詰まってる 
付き纏う止め処ない不安に 
為す術が見つからなくて… 

近頃少し擬態が下手になったから? 
本当の自分を生きようとするから? 

こうしてる間にも 
足下の土がぽろぽろ崩れている 
地面が傾いている… 

方法が見つからない 
私の居場所が消えそう… 




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TITLE:崩れそうな居場所





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RainDrops




窓辺の細い桟(さん)に頬杖ついて 

雨音に身を委ねる 
髪や皮膚やそしてこの身に浸みてくる 
窓ガラスの冷たい感触 

もがいているいくつもの感情を 
平静というオブラートで包んで 
雨粒の重石を載せる 
気付かれないように引き出しの奥に  
…………隠し込む 

鈍い音で転がりながら 
イタイイタイって小さな声で 
本当は必死に叫んでいる? 
ねぇ、耳を澄ませてよ! 

誰かに気付いて欲しいくせに 
気付かれないように 
矛盾というガラスの迷路 
心の奥に滑り落ちるよ 
…………結露になって 

ぽっかりと開いている小さな穴は 
時々容赦なく洞窟になり 
孤独という暗闇に誘う 
「ガンジガラメになろうよ…」 
「ガンジガラメになろうよ…」 

まだ力が残っているのかな 
「無色のフリ」を着た憂鬱と絶望は 
雨粒みたいに弾けてしまえ!って 
背中側の別の自分が願っているから 

もう少し歩いてみようかな 
滲んで拡がるだけの染みのような過去を 
水溜りに蹴散らしてカカトで跳ね上げて 
ヌカルミに足を踏ん張ってさ 

………もう少し歩いてみようかな 



(もう、とっくに通り過ぎたけど 
私の誕生日によせて……




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TITLE:Rain Drops




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ガラスの道の真ん中で立ち尽くす、爪先から頭までの今日

 

 

 

 




私がこの世界に存在することは 

誰にとってどんな風に 
どれほどの意味があるのか? 

こんなにも年月が経った今も 
私は私自身に愛着も執着もないままで… 
あの時からずーっとずーっと出来損ないで 
今も変わらず私が見る私は出来損ないで… 

最近やっと見え始めた自分の足元も 
何かと引き換えに手に入れた未来も 
結局何一つ未完成のまま泡のように消えた 

それもいつか訪れる次のステップの前では 
ただの錯覚だったと処理してしまうであろう自分が 
少し先の未来で訝(いぶか)しそうに笑っている 

恐る恐る後ろを振り向くと 
私の中で叫んでいる何かを開放しようと 
密かに大切な人たちを欺いた過去の自分が 
自暴自棄を押え付けながら蹲(うずくま)っている 

神様がいるなんて思っていないこんな私にも 
神様は勿体ないほどの宝物をくれた 
結局誰かを犠牲にしてまでも 
自分の道を行く勇気はなかったけれど 

それも様々な柵(しがらみ)の中で諦めに姿を変え 
老いた身体を欲するように輝きを失せて行く 
時間は優しくもあるけれど 
こういうことには情け容赦ない 

時間の流れを傍観者のように遠目で見ているくせに 
切なさと侘しさを心の片隅に抱いている私がいる 
手放せない好奇心とか野心とかに巣食われたジレンマが 
しぶとく生きてやっと人間臭くなってる証拠で… 

それはそれで素直によかったと思う 

相変わらずガラスの道の真ん中で立ち止まったまま 
私が私である少し特別な日はちっとも前へ進めなくて… 
もうとっくに通り過ぎた誕生日は 
爪先から頭までのたったその分に凝縮されている 





(もう、とっくに通り過ぎたけど 
私の誕生日によせて……) 






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TITLE:ガラスの道の真ん中で立ち尽くす






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吐き出し! 




セクハラオヤジに対する不快な言葉の羅列です。 

鬱憤吐き出しです。 

同種のストレスを抱える方も興味本位の方も、 
閲覧の際のそれに伴う不快感情に於いて、 
当方は一切責任を負いません。 

(このテキストに絵、写真はありません。)







huzakeruna! kusooyaji! tyousini nottennja naizo! 
kimotiwaruinndayo! 
naniga「yasasikusite」da! tadanosekuharajanaika! 
sigotojanakattara darega egaode taiousuruka! 
sikatanakukiiteruni kimatterudesyo! 
tyousini notterunnjanaizo ahoka! 
huzakennna! kusottarega! 
omaeno kaowo miruto mukatukunndayo! 
yuuutunahiga huerunndayo! 
uttousii aa kimotiwarui kimotiwarui! 
aaaaaaa! kuso! 
heikide usobakari narabetateru imaimasiikutimo 
sonokoemo kaomo unnzari! 
nanisamano tumorideirunnda? 
souiukotowo sitainara souiutokorohe ikebaii! 
watasiha anatano omotyaja nai! 
hayakusinndekudasai 
watasinomaekara kietekudasai! 
anatani kirawaretemo itakumo kayukumo arimasen! 
aa hayakusinebaiinoni








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ジレンマ





世の中が嫌になった 

みんな死ねばいいと思った 

画面に映し出される凄惨な事件 
ニュースに繰り返される声は 
サブリミナルのように動機を垂れ流す 

胸の奥に疼疼と蠢く反乱因子 
(あぶく)のようなそれを一心不乱に塗り潰す 
奇麗なライムの色で塗り潰す 
私の大好きなライムの色で… 

何べんも何べんも色を重ねる 
重ねても重ねても何か落ち着かなくて… 
何べんも何べんも描く 
描いても描いても何か落ち着かなくて… 
好きな色をたくさん乗せたけれど 
何か落ち着かなくて… 

嫌なものがこびり付く…もやもやと積もる
楽しい気分はいけない…罪悪感が押し寄せる 

同じような不満因子に共鳴する 
自分の中にも存在する同じ動機 
同じものを持っている自分への嫌悪感 

絶対違う 
絶対違う 
絶対違うと心は叫んでいるのに 
それは根を張るように存在している 
払拭できない嫌な部分への嫌悪感 

いろんなものを塗り潰す 
やがて自分まで塗り潰して 
いつしか無を求めて
自分が消えてしまえばいいのに… 

そんな自分をまた塗り潰して 
自分を見失っては堂々巡りばかり 




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TITLE:ジレンマ







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大衆に気付いてるなら 

無数の眼差しを受け止めているなら 
何故その愚かさに気付かない? 

対極にある思想が心優しい振りをして 
振り撒いているモノが唯の偽善だとしても 
種明かしや言い訳なんて必要ない 

思いやりがただの綺麗事だとしても 
明かさなければ善として成り立つ 

負の因子をホースで撒き散らす 
棘だらけの吐物を見境なく投げ付ける 

傷付けることはいとも簡単にできる 
傷付いているを知ることはそんなに難しいこと? 

重心のずれた銃を振り回す 
敵はどこにいる? 

敵は 
何一つ気付いていない未熟な自分 

曇った鏡の向うの自分に怯え 
無意味に毒づく愚かな自分 
敵は要らない… 


(消去…ポチッ) 

消えたのは本当の私? 




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TITLE:敵は自分







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